2020 Fiscal Year Research-status Report
偏微分方程式と有限要素近似に関する精度保証付き数値計算法の発展とその自動化の研究
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20K03752
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
木村 拓馬 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (60581618)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 数値解析 / 数値計算 / 精度保証付き数値計算 / 微分方程式 / 発展方程式 / 有限要素法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,偏微分方程式の厳密解の存在範囲もしくは一意存在の範囲を,計算機を用いて自動的に求める精度保証付き数値計算法の研究を行うものである.その目標のひとつとして,基本解行列の厳密計算を応用した偏微分方程式の解の存在証明手法の改良を掲げている. 今年度は,主に線形放物型偏微分方程式の周期境界値問題を対象として,数値解に対する誤差評価法についての研究を行った. まず,基本解行列の厳密計算を応用した偏微分方程式の解の存在証明手法の改良について,研究代表者がこれまでに得た知見をまとめ改良を行った.既存の誤差評価式の証明を全て見直すことで,シンプルでありかつ既知の手法よりも精度が良いことが理論的にいえるような事前誤差評価式を導出できている.これについては研究の初期段階で大筋ができていたが,時間方向の誤差評価について同分野の研究者の知見をもとに改良を行っている.さらに,ある時刻における誤差のノルム評価という意味での pointwise な誤差評価式を導出することができている.これらについて数値実験を行い,いくつかの例について実際の誤差のノルム評価と,既知の誤差評価式と,新たに導出した誤差評価式との比較を行っている.その成果を論文にまとめて国際的な査読付き学術誌に投稿した. また,扱う問題によっては基本解行列を用いた時間方向の離散化における計算の負荷が大きくなる場合があるため,空間方向の離散化は有限要素法のまま,時間方向の離散化に有限要素法やフーリエ展開を用いた場合の誤差評価についても検討を進めている.フーリエ展開を用いた手法については誤差評価式を導出できており,数値実験による有用性の検討を行っている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず,今年度は論文の掲載等の明らかな業績はないものの,「研究実績の概要」に記したように,本研究課題の初年度から次年度にかけての目標の一つに掲げている「基本解行列の厳密計算を応用した偏微分方程式の解の存在証明手法の改良」について論文を投稿できている. しかしながら,新型コロナウイルス感染症拡大の影響により研究活動への支障が生じており,今年度は課題着手までの知見の蓄積が大きいため何とか進めているが,次年度以降の計画に遅れが生じる可能性があるため改善したい.対面での学会参加等が全く無くなり,関連分野の研究者との交流も非常に限られたものとなっているため,新たな知見を得る機会が減少し,本研究についての他の研究者からのアドバイスや意見を得ることも難しくなっている.オンラインでは,なんとなく聴講した講演で自分の研究に使えそうなことを知る,懇親会でたまたま知り合ったひとと雑談したらいいことを教えてもらう,といったことが無いため,これまで以上に積極的に時間をかけて知見を得る必要がある.さらに,学内での業務についても,感染拡大状況によって緊急対応する業務が発生することがあり,またこれまで通りの業務ができず時間がかかるようになっており,まとまった研究時間の確保が難しくなっている. 上記の理由から,遅れているわけではないが,当初の計画以上に進展しているとはいえないため,「おおむね順調に進展している」と評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,「研究実績の概要」に述べたフーリエ展開を用いた手法について論文の投稿をめざす. そして,当初計画の通り「解の存在証明とともに有限要素近似解の誤差評価も行う手法」を導出したい.これは,既知の手法を基にして全離散化にあらわれる行列と有限要素行列との差をとって最大・最小固有値を精度保証付き数値計算できれば解決できるように思われるが,それでは計算量が大きくなってしまい,また有限要素法だけでは時間方向に「硬い」方程式に対処できず補間作用素を用いた高精度化を行った経緯もあるため,応用には不適当と思われる.よって半離散近似解をはさんだ三角不等式を考えて,空間方向は有限要素法を行い境界値問題の中尾の方法で評価し,時間方向は離散化の違いを新たに構成的に事前誤差評価するような手法を導出したい. また,得られた研究成果のその他の形式の方程式への応用・拡張と高精度化などの改良について検討したい.特に,線形放物型偏微分方程式については事前誤差評価式を得られているため、それを応用した非線形放物型方程式について検証を行いたい.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により,当初計画していた,本研究課題における数値実験に必要である一次記憶領域が大きく高性能な計算機の購入と,最新の研究成果・動向を知るとともに自分の研究成果をアピールし関連する分野の専門家との意見交換を行うための学会参加費・旅費との使用に支障が生じている.当該年度の初めに海外生産している計算機用部品の入手に滞りが生じ,その後はコンピュータ関連部品の需要が大きくなり,現在も一部の部品価格が高騰しているようである.そのため,当初想定していた性能の計算機を入手することに支障があり,遅れが生じている.また,研究発表を予定していた国際会議等は延期のままになっており,国内学会はオンライン開催となり,打合せや会合も実施できていない状況にある.よって旅費を使用する機会が無くなっている.以上の理由によって次年度使用額が発生している. 発生した次年度使用額については,遅れが生じている計算機の確保のために使用する.また,もし国際会議や学会が再開するようであれば,その旅費に使用する.
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