2020 Fiscal Year Research-status Report
Verification of electric toroidal quadrupole order by magnetopiezoelectric effect
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20K03825
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
日高 宏之 北海道大学, 理学研究院, 助教 (90466459)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 電流誘起格子歪み / 電気トロイダル四極子 / 空間反転対称性対称性 / 奇パリティ多極子 |
Outline of Annual Research Achievements |
固体中における多彩な秩序状態は一般に、電荷・磁荷分布の異方性を特徴づける「多極子」で表現することが出来る。特に、結晶構造に空間反転対称性を持たない固体中では、空間反転操作に対して奇関数となる「奇パリティ多極子」が秩序し、通常の金属では発生しえない物理応答、例えば電流によって誘起される結晶格子の歪み、が観測される可能性が理論的に予言されている。本研究では、この奇パリティ多極子秩序の一種である「電気トロイダル四極子秩序」に起因した「電流誘起格子歪み」を観測することを目的とし、局所的に空間反転対称性を持たない金属磁性体における実験的検証を行っている。 2020年度はまず、格子歪み観測のための「多重環境下熱膨張測定システム」の構築を行った。熱膨張測定には市販の歪みゲージを用いた2ゲージアクティブダミー法を採用し、極低温・強磁場・電流環境下で高精度に熱膨張が測定できるシステムを構築した。 そのシステムを用い、実際に電気トロイダル四極子秩序候補物質Cd2Re2O7およびCeCoSiにおける熱膨張測定を行った。Cd2Re2O7においては、磁場中熱膨張測定の結果から、本物質の構造相転移には電気四極子が関与していることを明らかにし、それが電気トロイダル四極子秩序の傍証となっている可能性を指摘した。CeCoSiにおいては、本物質の低温秩序状態の基本情報が不足していたことから、磁場中熱膨張測定に加えて電気抵抗や磁化といった基本物性の測定も併せて行った。その結果から、強磁場域までの温度―磁場相図を作成し、CeCoSiの低温秩序相の秩序変数同定にとって重要な情報を得た。これらの結果は、研究目的である「電流誘起格子歪み」発生の可能性を支持するものである。また上記の研究に加えて、局所的に空間反転対称性を持たない金属磁性体の別の物質としてGdBe13のヘリカル秩序発生機構に関する研究も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度には、局所的に空間反転対称性を持たない金属磁性体Cd2Re2O7およびCeCoSiにおいて電気トロイダル四極子秩序に起因した電流誘起格子歪みの検証を行う計画であった。まず、研究遂行のために必須であった世界初の多重環境下(極低温・強磁場・電流)での測定が可能な高精度熱膨張測定システムの開発に成功した。また、このシステムを用いて、上記両物質においてこれまで研究報告のなかった極低温・強磁場下における熱膨張測定を行い、その格子歪みに関する基本情報や秩序状態に関して重要な知見を得ることが出来た。この結果は電流下熱膨張測定のためのベースとなる情報でもあり、今後の研究のための下準備はほぼ完了したといえる。実際にCd2Re2O7では電流・強磁場下における熱膨張測定をすでに開始しており、信頼に足る実験データが取れ始めているところである。 上記に加えて、2021年度に計画しているピストンシリンダーを用いたCeCoSiの高圧下熱膨張測定のための測定システム構築も開始しており、これまでに1.5GPa超の高圧発生に成功している。また、局所的に空間反転対称性を持たない金属磁性体の関連物質としてヘリカル磁性体GdBe13の基本物性に関する研究も行い、本物質が金属磁性体におけるヘリカル秩序の典型物質として重要であることを明らかにした。 これらの結果は、査読付き学術論文1件、国内学会・研究会口頭発表3件、学部学生卒業研究1件として成果報告されている。新型コロナ禍の影響で特に年度前半の研究活動や研究発表の機会が大きく制限されたことを考えても、研究はおおむね順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には当初の研究計画に従い研究を進める。2020年度に局所的に空間反転対称性を持たない金属磁性体Cd2Re2O7およびCeCoSiにおける極低温・強磁場・電流下熱膨張測定のための下準備とその予備的な実験が完了している。今後は、電流・磁場印可方向と熱膨張測定軸方向を変えながら測定を行い、その結果から「電流誘起格子歪み」の有無とその対称性について群論を基にした理論モデルと比較しながら明らかにする。並行して、ピストンシリンダーを用いた高圧下熱膨張測定システムを完成させ、CeCoSiの格子歪みや秩序状態の圧力効果を調査する。 また、CeCoSiにおける電流誘起格子歪み以外の交差相関応答(例えば電流誘起磁化)の検証や、他の局所的に空間反転対称性を持たない金属磁性体の関連物質に関する開発・研究にも着手し、奇パリティ多極子研究の新たな舞台を開拓することを目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナ禍により、共同利用施設の利用停止や学会のオンライン化が起きたために、共同利用施設の利用料や旅費不要分が次年度使用額として生じた。翌年度は、共同利用施設の利用料として使用する計画である。
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Research Products
(4 results)