2023 Fiscal Year Research-status Report
Dynamics of rotating black holes in AdS
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20K03976
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
村田 佳樹 日本大学, 文理学部, 准教授 (00707804)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 相対論 |
Outline of Annual Research Achievements |
最近、クリロフ複雑度が量子系の複雑さとカオス性の尺度として提案された。我々は、古典的にカオス的な系を量子化することによって得られる量子力学的な系の典型的な例として、スタジアムビリヤードを考え、演算子と状態のクリロフ複雑度を数値的に評価した。クリロフ複雑度の指数関数的な成長は見られなかったが、ランチョス係数の分散と古典的リヤプノフ指数、および量子エネルギーレベルの隣接間隔の統計的分布との明確な相関関係が見られた。これにより、ランチョス係数の分散が量子カオスの尺度となり得ることが示された。この結果の普遍性は、シナイビリヤードの類似した分析によって支持されている。 また、我々は、境界条件として無限遠でのロビン境界条件を持つ漸近AdSブラックホールの準固有振動を研究した。背景時空として平坦なイベントホライズンを持つシュワルツシルトAdS4時空を考え、そのスカラー場の摂動を調べた。無限遠でのスカラー場の遅い減衰モードと速い減衰モードの主要係数をそれぞれφ1とφ2で示し、その間に線形関係 φ2=cot(θ/2)φ1を仮定する。ここで、θはロビンパラメータと呼ばれる定数であり、θ~θ+2πの周期的である。ロビンパラメータのある範囲では、境界条件によって駆動される不安定性が存在することが分かった。また、境界条件のパラメトリックサイクル:θ=0→2πにおけるQNMスペクトルのホロノミーも発見した。1サイクル後、QNMのn番目の高調波は(n-1)番目の高調波に移動することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々の研究により、ランチョス係数の分散と古典的リヤプノフ指数、および量子エネルギーレベルの隣接間隔の統計的分布との明確な相関関係が見られ、ランチョス係数の分散が量子カオスの尺度となり得ることがわかったため。 また、境界条件として無限遠でのロビン境界条件を持つ漸近AdSブラックホールの準固有振動を研究したことにより、QNMスペクトルのホロノミーが存在することを発見したため。
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Strategy for Future Research Activity |
我々の研究により、超放射不安定性を簡単に扱う手法が確立されつつある。その方法により、新しいブラックホール解の発見につながっている。今後は、動的な安定性の解析、超放射不安定性の時間発展シミュレーションなどの研究に発展させていく予定である。特に終状態のブラックホール解を特定し、それが場の理論側でどのような相 に対応しているのかを決定したい。 裸の特異点が形成された場合は、それが場の理論側でどのようなシグナルとして現れるかを調べていく。また、最近の我々の研究で、ブラックホール時空中の量子論を、スピン系を用いて調べることができることが分かってきたので、ホーキング放射の実験的検証に向けた研究も行っていきたい。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスのため国際研究会への参加が先延ばしになったため。次年度に、積極的に国際研究会に参加して、研究成果を発表する予定である。特に、2024年度の6月は、ポルトガルに滞在し、ブラックストリングの新たな不安定性のついての研究成果発表を行う。また、同国の研究会にて、スピン系で曲がった時空中の場の理論を実現する方法についての発表も行う予定である。7月は中国で招待講演を行い、AdS/CFT対応に関する最近の研究結果について解説する。
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