2021 Fiscal Year Research-status Report
ダークサテライトは存在するか?―コールドダークマターモデルにおける諸問題の解明
Project/Area Number |
20K04022
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
森 正夫 筑波大学, 計算科学研究センター, 准教授 (10338585)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ダークマター / 銀河形成 / 銀河進化 / 数値シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
コールドダークマターモデルにおける階層的構造形成において、矮小銀河程度の低質量ダークマターハローはその銀河形成におけるビルディングブロックとして重要な役割を果たし、その進化史を調査することはダークマターの性質を知るための鍵となる。 本年度は、質量範囲が100万から100億太陽質量程度にある矮小銀河サイズのダークマターハローの力学進化と質量進化を、最新の超高分解能宇宙論的N体シミュレーションのデータ解析を行った。ここでは、27個の銀河系サイズのホストダークマターハローの重力ポテンシャルに束縛された総数30万個のダークマターサブハローのデータを抽出し、サブハローの最大回転速度とその位置の進化の様子を統計的に解析した。それにより、ホストハローの潮汐力による剥ぎ取りの効果と最大回転速度の進化を定量的に示すことができた。また、これらのサブハローの質量密度分布を Navarro-Frenk-White 質量密度関数でフィットした際の中心集中度のパラメータとビリアル質量の関係を求め、その近似式を求めた結果、先行研究の Ishiyama and Ando (2020) の結果と矛盾がない事が分かった。さらに、ここで得られた理論予言と矮小銀河から銀河団の観測データを比較・検討し、その妥当性を議論した。分光観測による銀河の回転曲線や速度分散のデータ、銀河群・銀河団の高温ガスからX線観測データ及び銀河団の重力レンズ効果から求めたダークマターハローの質量分布のデータ等、7桁にも及ぶ質量範囲でコールドダークマターモデルの予言が、観測を矛盾なく説明できることを明らかにした。加えて、そのようなサブハロー同士の衝突によって誕生する銀河の形成過程について詳細に調べた。本研究成果を4編の学術論文としてまとめ、投稿準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス拡散の社会的状況により、国内共同研究や海外研究者との国際会議等への参加について制限を受けたものの、オンラインでの国内外の共同研究者との共同研究の進展や国際会議での報告やディスカッションを進めたおかげで、研究の進捗を加速する事ができた。 その結果、本研究課題の主要な部分を占める研究成果について4本の学術論文にまとめる事になった。年度を跨いだ形での論文執筆となってしまったため令和3年度の論文公表は1篇だけであったが、残り3篇の論文が投稿直前の最終チェック状況となっている。さらに、本研究課題を遂行するための二つの独立した研究プロジェクトについても、令和4年度中には学術論文としてまとめる予定である。以上のようなことから当初の計画以上に研究が進展している状況となった。
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Strategy for Future Research Activity |
標準的なコールドダークマターモデルを基礎とした銀河形成シナリオでは銀河系ほどの大きさを持った銀河に付随する矮小銀河の総数に関する理論予測が、実際の観測と大きく食い違っている。いわゆる Missing Satellite Problem が未解決問題として指摘されている。この解決案として、観測が不可能なほどに暗いSub-halo(Dark Satellite) の存在が考えられており、先行研究からこの Dark Satellite の存在を観測可能な Bright Satellite との衝突から間接的に示せる可能性が示唆された。今後は、宇宙論的N体シミュレーションや精密位置天文衛星の観測データを最大限活用して、Milky Way サイズの Host 銀河に付随した(Brightと Dark を含む) Sub-halo 同士の二体衝突の頻度を時間進化する系の中で詳細に調べる必要がある。そのような理論解析を進めた上で、矮小銀河の観測を通してDark Satellite の存在を観測的に見極めていく予定である。
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Causes of Carryover |
令和3年度は、新型コロナウィルス拡散の社会的状況により、シミュレーションデータ処理を行うための人件費も利用する機会がなく、また、本来計画していた出張が不可能となったため次年度使用額が生じる事となった。 令和4年度においても、新型コロナウィルス拡散予防の社会的状況を勘案しながら対応していく事になると思われるため、オンラインミーティングをストレスなく実行するための周辺環境の整備を行っていく。
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Research Products
(17 results)