2023 Fiscal Year Research-status Report
公共サービスをめぐる紛争の解決モデル:ラテンアメリカを事例として
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20K04995
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
大石 晃史 東京外国語大学, 現代アフリカ地域研究センター, 研究員 (60814944)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森川 想 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (10736226)
和田 毅 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20534382)
牧田 裕美 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (00882862)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 公共財 / インフラ / 民営化 / 地方分権 / 紛争 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はメキシコシティの水道民営化をめぐる紛争を中心に研究を行った。当該事例は地方分権化の影響を受けて水道サービスの民営化が頓挫した事例である。まず、本年度は前年度のメキシコ現地調査に基づく研究の成果発表として、International Association of Schools and Institutes of Administration (IASIA)の年次総会において口頭発表を行い、当該分野の研究者からフィードバックを収集した。また、6月にインディアナ大学において公共財供給に関して研究を行っている政治学者・アフリカ研究者たちを交えつつ、公共財供給をめぐる紛争に関するディスカッションを集中的に行い、メキシコシティの事例についてその位置づけを整理した。その結果、理論的には公共財供給をめぐる紛争を政治家と市民の間のシグナリングゲームとして扱うことで地方分権化が民営化をめぐる紛争に与える影響を適切にモデル化できる可能性が浮上した。また、その理論モデルを実証的に検証する上では、メキシコシティとの比較対象として、分権化と両立しながら水道サービスの民営化に成功したジャカルタの事例が有力であることが判明した。そのため、年度後半ではメキシコシティとジャカルタの事例比較を行うための基礎的な情報収集を行った。特にジャカルタについては本研究課題ではこれまで現地調査を行っていないため、先行研究で当該事例に関する情報を詳細に収集した。また、メキシコシティにおける再現地調査やジャカルタにおける新規現地調査の必要性・実施可能性についても検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究課題の初年度、第二年度を中心にコロナ禍の影響で現地調査に大幅な制限があったため、その後、徐々にキャッチアップしているものの、研究計画全体としては当初のものよりは依然として遅れが若干存在している。特に、ラテンアメリカでの現地調査については前年度までに当初予定していた基本的な範囲は実施することができたが、その調査結果の分析と研究成果の出版という点では、当初計画の中において本年度までには実施できていないものがいくつかある。特にメキシコシティの水道民営化の事例を理論的にどう位置づけるかという点については本年度の研究の中で大きな進展があり、その方向性が非常に明確になったものの、それを十分な遂行するためには次年度(最終年度)においても引き続き研究作業が必要な状態である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度においては、メキシコシティとジャカルタのインフラ民営化をめぐる紛争を比較することで、本年度までの現地調査の結果を理論的・モデル的な立場から整理することを目指す。メキシコシティは民営化と分権化が両立しなかった事例、ジャカルタは両立した事例として考えられるが、このような紛争の発生・拡大の有無の差がどこから生じたのかは十分に研究されていない。また、先行研究では分権化はインフラ民営化に悪影響を与えるという論調が支配的だが、そのメカニズムについてはいくつかの代表的な研究でも曖昧に議論されているのみで、インフラ供給をめぐるアクター間の相互作用として明示的にモデル化されている訳ではない。そのため、最終年度ではインフラ供給をめぐる不完備情報ゲームなどの形でアクター間、特に政治家や市民の間の明示的に扱うことで、分権的ガバナンスがインフラ供給をめぐる紛争に影響するメカニズムをモデル化し、それによってメキシコシティの事例からより一般的な知見を抽出することを目指す。
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Causes of Carryover |
前年度までに実施した現地調査結果の分析について当初計画よりも遅れた部分があり、それによって本年度に予定していた追加調査や研究成果出版について一部が執行できなかったため。次年度においては、追加的な現地調査のために旅費を利用するとともに、本年度に実施できなかった研究成果の出版のために、論文掲載費やデータサーバー利用料としてその他の経費を利用する予定である。
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