2022 Fiscal Year Research-status Report
都市型限界集落を対象とした地域コミュニティ主体の包括的危機管理モデルの構築
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20K05011
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
細田 聡 関東学院大学, 社会学部, 教授 (60270542)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小山 弘美 関東学院大学, 社会学部, 准教授 (00732801)
元木 誠 関東学院大学, 理工学部, 教授 (20440282)
永田 真弓 関東学院大学, 看護学部, 教授 (40294558)
施 桂栄 関東学院大学, 人間共生学部, 教授 (40370192)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 地域防災 / 地域連帯性 / 支援ポテンシャル / 共助態勢 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は対象とする地域コミュニティに対して地域防災に関する質問紙調査を実施した。質問項目の作成に当たっては、既往知見を参考にしつつ研究者による議論を経て項目案を作成した。これについて対象地域の自治会役員に検討を依頼し、修正提案を受けて最終決定した。これに基づき、学内の研究倫理調査委員会に研究計画等を申請しその承認を得た。調査実施にあたっては、調査の主旨および実施方法について自治会役員に対して説明会を行い、その後、班長および地区長に対して3回の説明会を行い、それぞれ同意書を得た。 2022年11月15日~12月31日に、対象地域1130世帯に対して各班長が戸別配付し、各世帯にて調査票に回答し郵送方式で回収した。回答数は415世帯(世帯内全居住者945人)であり、有効回答率は38%であった。 対象地域では2人暮らしが過半数を占め、1人暮らしは15%であり、70代以上が51%であった。また、35年以上の居住暦は62%であり、その多くが自治会の班長や地区長を経験している。そして、地域活動や防災訓練の参加率は比較的高く、平常時および災害時の地域連帯性があるとの認識率は高い。 本質問紙調査では、大震災が発生し1週間を乗り切らねばならないとの状況を想定して、各質問項目への回答を求めた。その結果、計算上は、要支援者1人対して6人からの支援が可能であるとする支援ポテンシャルを明らかすることができた。これに加え、避難生活用品の備蓄状況は良好であり連帯性も高いことから、対象地域の共助態勢は構築可能であると推察された。ただし、高齢者が多く、数年後には、支援者が要支援者に変わることが容易に推測できる。このことから、現在の共助態勢が維持できないことも視野に入れた地域防災の方策を考える必要性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、誰一人取り残すことのない地域コミュニティの危機管理を構築することであり、これに向けて、本年度は、質問紙調査を実施することができた。本調査では、高齢化率が50%以上であり、震災発生時に避難等に困難が生じる可能性がある都市部の限界集落状況にある地域を「都市型限界集落」と位置づけ、これを対象とした地域防災の調査を行った。その結果、調査対象地域の危機対応の強靭性や脆弱性の現状を明らかにしつつ、地域における人的・物的・情報的支援ポテンシャルを算出し、これに基づく自然災害に対する危機管理の構築に資するデータを得たと考える。 本研究の当初の具体的目標として、当該地域において優先して支援すべき対象世帯・居住者を検出し要支援MAPの策定することを掲げていた。しかし、質問紙調査の事前協議により、個人情報保護の観点から各世帯・各居住者の生活様態に立ち入った調査内容に対して、対象地域の自治会役員から懸念が示され、結果的に個別情報までの取得には至らなかった。そのため、具体的に要支援者の求める支援内容や支援者-要支援者のマッチングについては、地域内自治会の地区や班での活動に委ねることになった。 調査結果では、要支援者の8割以上が70歳以上の高齢者であったが、乳幼児とその保護者、外国人居住者などの災害時要支援者も居住していることも判明した。少数であるとはいえ、誰一人取り残すことのない地域防災を目指すうえで、これら居住者への支援策も計画する必要があることも判明した。避難所での各種感染症対策、乳幼児や在宅療養者の援護方法などを含め、今後の検討課題が明確になった。 以上、調査年度の遅れがあるものの、本研究が、従来の計画にのっとり履行されたことから、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、「都市型限界集落」における地域コミュニティの居住者自身が危機管理の当事者として捉え、多様な地域住民の特性・ニーズを質問紙調査によって把握した。最終年度に当たる2023年度には、この調査データに基づき、地域住民自らのリスクマネジメントおよびクライシスマネジメントを実施可能とする支援プログラムを策定する。 具体的には、以下の3側面からアプローチする。第1は人的支援側面である。当該対象地域内では要支援者1名に対して支援可能者は約6名であることが判明した。しかし、緊急事態が発生した際、支援可能者がどこに居住する要支援者の支援に向かえば良いのか、要支援者の支援ニーズは何か、支援可能者はそれに応えることが可能であるか、といった個別の人的支援体制の構築を目指す必要がある。第2は物的支援側面である。質問紙調査では、避難生活での生活用品の備蓄状況は良好であることが明らかとなった。その一方、高齢者および乳幼児等に対するケア用品の備蓄不足が認められた。また、発電機器については不十分であることも明らかとなった。生活用品の分配方法のみならず不足傾向にある物品の補充方策など考慮する必要がある。第3は情報支援側面である。調査結果によると、一人暮らしの場合、誰に対してどのような手段で支援を訴求するかに課題が認められた。一方、4人以上世帯の場合、情報収集および発信には多様な手段を活用する傾向にあった。デジタル情報のみならずアナログ情報の活用可能性を一人暮らしに浸透させる方策が重要であろう。 これら3側面からの支援プログラムを住民自らが立案しつつ、その相互支援体制の構築に向けた方向性を提案する。これを実現する一助として、2023年度中に、地域防災に先進的に取り組んでいる自治体や地域コミュニティに対して面接調査を実施することとする。
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Causes of Carryover |
COVID-19の感染拡大に伴い今年度予定していた、地域防災に関し先進的な取り組み行っている自治体や地域を訪問し面接調査を実施することができなかった。本年度では、これらの先進的取り組みに至った経緯や背景、緊急事態に対する事前対策の課題の抽出やその解決方法について聴取し参考知見を取得する。特に、人的支援・物的支援・情報支援のそれぞれについて、その工夫のあり方や今後の課題について意見交換を行う。また、対象地域とは異なる特性(居住者の移動が多く近隣との連帯性が薄いなど)を有する地域への調査もCOVID-19の影響により先送りされた。こういった地域が選定され、調査の実施が可能であれば、本年度の調査結果と比較し、居住者の年齢構成や家族構成、自治会活動などを通した地域連帯性などの変数と支援ポテンシャルの関係が明らかとなる。これによって、汎用的な地域防災のリスクマネジメントの展開への足がかりが得られると考えられる。そして、災害時にドローンを活用する際の情報送受信システムの可能性について研究を行う。本年度は、昼間および夜間の人物検出手法を提案した。この研究を端緒として、避難誘導などの情報送受信について先駆的研究を進める。COVID-19の沈静化に伴い、最終年度には遅延の遅れを取り戻しつつ、4年間の総括ならびに今後の地域防災研究の方向性を提示する計画を立てている。
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