2023 Fiscal Year Research-status Report
都市型限界集落を対象とした地域コミュニティ主体の包括的危機管理モデルの構築
Project/Area Number |
20K05011
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
細田 聡 関東学院大学, 社会学部, 教授 (60270542)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小山 弘美 関東学院大学, 社会学部, 准教授 (00732801)
元木 誠 関東学院大学, 理工学部, 教授 (20440282)
永田 真弓 関東学院大学, 看護学部, 教授 (40294558)
施 桂栄 関東学院大学, 人間共生学部, 教授 (40370192)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 都市型限界集落 / 要支援者 / 支援可能者 / 支援ポテンシャル / 備蓄状況 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、前年度に実施した「都市型限界集落」における地域防災に関する質問紙調査によって得られたデータを3側面から詳細に分析した。 第1は人的側面からの分析である。大災害が発生した際、地域内での要支援者数と必要支援者数および支援可能者数から支援ポテンシャルを算出した。調査対象地域では支援ポテンシャルは5.9であり、数値上は十分に相互支援が可能である。また、要支援者への支援可能者が世帯内で不足している最優先支援世帯は全体の7.0%、要支援者を世帯内で何とか支援可能である優先支援世帯が全体の5.1%であった。しかしながら、要支援者がどこに居住し何の支援を求めているか、誰が誰の支援に向かいどの程度の求めに応じられるかといった個別具体的な支援の方法については自治会の地区や班に委ねざるを得ない。 第2は物的側面である。避難生活を想定した日用品の備蓄状況については、水、食料市販薬についての備蓄状況は良好である。その一方、高齢者用品・乳幼児用品は3日以内分の備蓄に留まるケースが多く認められた。避難生活用の事前準備については、避難生活用品や避難用リュックなどはある程度確保されているが、生活用水や携帯型トイレなどの避難生活用品の事前準備は十分であるとは言えず、特に避難生活用の発電機器の準備は1割程度にでしかなかった。 第3は情報側面の分析も行った。避難時行動において家族構成により支援を求める相手の比率が異なることが明らかとなった。全体的には同居者や隣近所に支援を求める比率が高い。ただし、査地域の一人暮らし世帯は14.7%であり、当然のことながら同居者に支援を求めることはできず隣近所や別居家族、友人知人に支援を求める傾向が強い。支援要請の連絡手段として、いずれの家族構成においても携帯電話・スマホを用いる傾向が高い。その一方、安否確認タオルなどアナログ的手法の活用可能性が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度に「都市型限界集落」における地域コミュニティの居住者自身が危機管理の当事者として捉え、多様な地域住民の特性・ニーズを質問紙調査によってデータを収集し、2023年度にはこのデータに基づき詳細な分析を行った。 本プロジェクトでは、「支援マップ」を事前に作成し、これに基づいた避難訓練や災害対応訓練を実施する。そして、支援マップや対応訓練に基づいた対応行動が大災害発生時には有効であることを明確化する予定であった。具体的には住民属性に応じた想定避難行動をパターン化し、これに応じた支援行動を立案する。そして、誰一人取り残すことのない地域コミュニティの危機管理策を案出する予定であった。しかしながら、質問紙調査の実施前の対象地域での説明会等における意見交換において、個人情報に関する質問は極力控えることが求められ、これに応じた質問紙調査となった。そのため、支援可能者がどこに居住し、どの要支援者の支援に向かえば良いのか、要支援者の支援ニーズは何か、支援可能者はそれに応えることが可能であるか、といった個別の支援体制の構築には至らない結果となった。 確かに、多くに地域でも個人情報が障壁となり、地域内で情報を共有したりきめ細やかな支援体制を構築したりすることが困難となっている。その一方、先進的な取り組みを行っている地域では、避難支援シートや世帯ごとの状況シートを作成し、これを元に共助体制を組むことに成功している。 本プロジェクトでは、地域住民自らが当事者となって共助体制を構築する具体的プロセスを提案したいと考えていた。そのために、共助可能な体制を事前に構築するなど危機管理システムを策定している先進的な自治体や地域コミュニティを参考にする予定であった。しかし、これらに対して面接調査を実施するまでに至らなかった。そのため、「やや遅れている」と自己点検・評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本来であれば、2023年度に完了している本プロジェクトであったが、現在の進捗状況において未達であることから1年間の延長を申請しこれが受理された。 2022年度に実施した「関ヶ谷地域における震災時の危機対応に関する調査」を実施した結果、いくつかの課題が見出された。第1の課題は、この質問紙調査での回答率が38%に留まったことである。対象地域の自治会役員とは何度も協議を重ね、調査目的や方法について検討したうえで実施した。しかし、数度にわたる地区長・班長への説明会への出席率が低いこともあり、各居住者まで協力依頼が浸透しなかった。第2の課題として、調査内容や分析方法に関わる個人情報の取扱いに関する各居住者が抱く疑義を払拭できなかった。そのため、調査側の元来意図とは異なる方向で実施せざるを得なかった。 これらの課題は調査者と対象者間で、調査実施前に十分なラポールが形成できていなかったことによると考えられる。確かに、地域コミュニティを対象とした質問紙調査などでは個人情報が障壁となり十分な調査結果が得られないことがある。しかし、このような障壁を克服し、支援マップを作成し情報共有に成功している地域がいくつか見出される。 こういった地域では、どの程度の期間をかけ、どのような方法によって個人情報の共有を可能にし、また、こういった活動への納得性を高め参加率向上を図ったのか。先進的な取組に成功した数か所の地域コミュニティに出向き、成功に至るまでの過程を学ぶとともにその背景に潜む課題をいかに克服したかについて2024年度前半に面接調査を実施する。 2024年度後半に、この面接調査によって得られた知見を本プロジェクトが対象とする地域コミュニティにフィードバックし、地域住民を対象としたワークショップを行う。 これら一連の調査過程を経て地域コミュニティの自律的な危機管理の体制構築を促すサポート策を案出する。
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Causes of Carryover |
COVID-19の感染拡大が継続し、先進的な地域防災に取り組む自治体や地域コミュニティに訪問し面接調査を実施することができなかった。 2024年度には、地域防災の先進的な地域コミュニティなどに対して、その取組に至った経緯や背景、緊急事態に対する事前対策の課題の抽出やその解決方法について聴取し参考知見を取得する。特に、支援マップを作成した経緯およびその背景要因、個人情報に関する情報共有の課題の取扱い、人的支援・物的支援・情報支援などの要支援内容と支援方法について面接調査を行う。現在のところ、面接対象とする地域は4か所を想定している。 これら面接調査に加えて、ドローンを用いた防災活動について、これを活用している自治体および地域に根付いた企業を対象に、ヒアリング調査も実施する予定である。安否状況確認、救援物資の搬送、避難者の誘導にどのように活用可能であるのか。また、その際の操作者の確保などの課題など、有効性とともに今後の課題も抽出する。 これらの面接調査等で得られた知見をもとに、当初に質問紙調査を実施した「都市型限界集落」地域に対してフィードバックを行い、地域住民を対象としたワークショップ等を行い、地域住民としての当事者意識を醸成するとともに具体的な地域防災活動へのバックアップフォロー策を提示する。
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