2021 Fiscal Year Research-status Report
湿式プロセスにより作製した磁性絶縁体薄膜を用いたスピン流熱電現象の物性解明
Project/Area Number |
20K05255
|
Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
山田 啓介 岐阜大学, 工学部, 助教 (50721792)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | スピンゼーベック効果 / YIG / 磁性ナノ粒子 / ゾルゲル法 / スピン軌道相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実施計画では、「材料組成変化と単結晶基板によるスピンゼーベック(SSE)起電力向上の試み」という題目で研究を実施する計画であった。実施した内容としては、材料組成変化によりSSE起電力向上を試みることである。具体的には、イットリウム鉄ガーネット(YIG)のYにBiを置換したBi-YIGのBi組成を変化させた試料を作製し、その試料のSSE起電力の大きさを系統的に調べた。BiをYIGに置換することで、Bi-YIG物質におけるスピンに由来した物性値(スピン軌道相互作用)が上昇するため、SSE起電力向上が期待できる。 Bi-YIGの前駆体はゾルゲル法で合成し、Si基板上にスピンコート法で薄膜化し、アニール処理を行うことで試料を作製した。X線回折法による結果から、多結晶のガーネット相に由来するピークが確認され、Bi組成の増加とともに格子定数が直線的に増大したことから、YIGへのBi置換を確認した。走査型電子顕微鏡の試料表面観察結果から、Bi-YIG膜はナノ粒子の集合体で、その膜厚は約50 nmであることを確認した。Bi-YIGに5 nmのPtをスパッタ成膜したBi-YIG/Pt試料を用いて、SSE起電力測定を行ったところ、Bi組成に依存してSSE起電力が変化した。特に、Bi組成が0.8のBi-YIG試料で、最大のSSE起電力を得た。また、この結果を考察するために、SSE起電力に係わる物性値(試料表面抵抗、損失定数、磁気カー効果回転角など)を各試料において測定し、SSE起電力との相関を調べた。これらの結果から、Bi置換により、Bi-YIGのスピン軌道相互作用が増加し、Ptを介したスピン流変換効率が向上したことにより、SSE起電力が大きくなったことがわかった。 これらの結果は、材料組成変化によるSSE起電力の向上を目指した当初の研究計画を達成することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に書いた通り、2021年度の研究計画を達成することができた。また、今までの先行研究において、研究実施の少ないゾルゲル法により作製した試料を用いた点も新規性が高く、磁気物性に係わる点においてもスピンに係わる物性の相関を明らかにできていることから、十分に研究は進んでいると評価した。今年度の研究成果は、国際学会で2件発表を行い、また成果をまとめた研究論文を 「Bismuth composition, thickness, and annealing temperature dependence of the spin Seebeck voltage in Bi-YIG films prepared using sol-gel solution and spin-coating method」という題目で、研究論文誌に投稿中である。このことから、研究を十分に達成できたと評価しており、「(2)おおむね順調に進捗している」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究計画の目的として、「単結晶基板によるスピンゼーベック(SSE)起電力向上の試み」の課題もあったが、作製した試料が多結晶体であったことから、単結晶基板によるSSE起電力の向上は観察できなかった。今後の課題として、化学手法を用いた試料作製方法において、単結晶の試料が作製できるかが鍵になる。新しい試料作製の化学的合成法を試すことも方策として必要である。 今年度の研究成果から、強磁性絶縁体におけるスピン軌道相互作用(SOC)を向上させると、スピン流変換効率が上昇することがわかった。3年度目の研究計画としては、「異常ネルンスト効果を利用した起電力向上の試み」の題目を研究計画では挙げたが、SOCをいかに向上させるかが、鍵となると考えている。そのため、推進方策としては、強磁性絶縁体物質に貴金属を混入させ、SOC自体を向上させることが、一つの方針して考えている。 磁性ナノ粒子のスケーラビリティを活かしたSSE起電力の向上も今後の推進方策として考えている。マグノン伝搬の拡散をうまく利用し、SSE起電力向上につなげられるかを方策として考えている。 上記のような様々な推進方策を行い、研究の題目であるSSE起電力向上に向けた研究を実施していく。
|
Causes of Carryover |
昨年度に実験設備として購入と立ち上げを行った機器類が上手く動作し、今年度は試料作製と測定に集中したため、助成金の使用が消耗品類に限られた。また、今年度は研究実施計画通りに研究が進んだため、学術論文を書くことに時間を割いたため、無駄な使用を避けたため、次年度使用額が生じた。次年度使用に回した助成金は、2022年度の研究実施計画に記載した研究計画と、その他の研究計画を実施するために、有効に使用する。
|