2021 Fiscal Year Research-status Report
Single crystal neutron structure analysis of small organic crystals by complementary use of X-ray and NMR crystallography
Project/Area Number |
20K05470
|
Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
大原 高志 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (60391249)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 単結晶中性子回折 / 有機結晶 / J-PARC / 単結晶X線回折 / 固体NMR / 量子化学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
単結晶中性子構造解析法は結晶中の水素原子を観察する極めて強力な手法であるが、巨大単結晶を必要とすることから測定のハードルは非常に高い。本申請課題では、X線回折及び固体NMRで得られた構造情報を最大限活用することで、中性子回折データから決定する必要がある構造情報を極力減らし、これによって従来の1/10程度の体積である0.2~0.3ミリ角の単結晶試料を用いた単結晶中性子構造解析を実現することを目的としている。 令和3年度はこれまで代表者によって単結晶中性子構造解析が行われ、構造既知である2-(2'-hydroxyphenyl)benzimidazole(HPBI)について、元の測定時間である45時間から15分までの様々な時間での測定を想定した模擬中性子回折データを作成し、これらの回折データを処理することで得られた反射データを用いた構造精密化を試みた。その結果、分子内のO-H距離の標準偏差は、45時間測定のデータでは0.007Åなのに対し、15分測定のデータでは0.04Åまで大きくなったが、驚くべきことに15分測定のデータでもX線での構造を初期モデルとして水素原子の結合サイト決定が可能であった。このことから、有機結晶中の水素原子結合サイト決定においては、測定に用いる単結晶試料を予想以上に微小化できる可能性があることが判明した。また、HPBIの結晶試料について固体NMR測定を行い、13CのCP-MASスペクトルを得ることができた。今後、水素をはじめ他の核種へと展開する予定である。これらに加えて、DFT計算の一種であるGIPAW法によってX線及び中性子回折で決定した分子構造からそれぞれの水素原子の化学シフトを計算した結果、両者の間では水素、窒素及び酸素の化学シフトに大きな違いが生じることを見出し、固体NMR測定の指針を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、中性子、X線、NMRを相補的に利用して進めるものであるが、令和3年度において計画していた首都圏の供用施設のNMR装置を利用した固体NMRを測定について、令和2年度から続いた新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、所属機関の方針等による国内移動の制限が発生し、計画通りに実施することが難しかったため、固体NMR測定については、勤務地近隣の研究機関の施設を使用して実施可能な測定から開始した。ところが、装置の性能に限界があり、高分解能1Hスペクトルといった本研究の鍵となるようなデータについては、当初の予定通りに首都圏にある供用施設の装置を使用する必要があると判断し、高分解能の固体NMR測定は、令和4年度以降に実施することに計画を変更したため、やや遅れていると判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、GIPAW法によって得られた結晶構造と化学シフトの相関を基に、水素原子の構造パラメータの影響が大きい核種の高分解能固体NMRスペクトルの測定を行う。これにより、分子中の水素原子-非水素原子間の結合距離をNMRから実験的に求める。ここで得られた結合距離に加え、X線構造解析によって得られた非水素原子の構造情報をを基にした束縛条件を中性子による構造精密化に反映させることで、短時間測定を想定した疑似中性子回折データから得られる構造情報の標準偏差を束縛無しの精密化に対して可能な限り小さくすることを目指し、回折データの処理方法や束縛条件について最適化を進める。また、現在用いている回折データは短時間測定を模したものであって微小結晶を模したものではないことから、実際に0.2~0.3mm角程度のHPBI単結晶を用いて単結晶中性子回折データを測定し、単結晶試料の微小化が解析精度にどのように影響するかを系統的に明らかにすることを目指す。
|
Causes of Carryover |
令和3年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、予定していた国際学会(IUCr2020)がリモート開催に変更されたことや供用施設を用いた固体NMR測定の実施を令和4年度以降に変更したため、当初計画に比べて、支出が少額となったことから次年度使用額が生じた。次年度使用額は、令和4年度分研究費と合わせて、令和4年度に実施する固体NMR測定に必要な消耗品の購入や施設利用に係る費用及び国内出張に係る費用として使用する。
|
Research Products
(12 results)