2021 Fiscal Year Research-status Report
柔軟なプロトン-電子状態をもつ低次元金属錯体における外場応答性と動的機能
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20K05537
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
志賀 拓也 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (00375411)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 双安定性錯体 / プロトン / スピンクロスオーバー / 鉄 / 低次元錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、柔軟なプロトン-電子状態をもつ低次元金属錯体を構築し、さまざまな外場応答性と動的機能を発現することを目的として研究を行った。目標とする化合物は、解離性プロトンをもち鉄イオンが架橋された一次元錯体集合体であり、具体的には、熱・光・圧力・電場・酸/塩基・ゲスト分子(プロトンドナー/アクセプター分子)などの外部刺激に対する応答性を調べることで、固体および溶液中での電子状態を解明し、多彩な電子状態変化を示す材料開発を行っている。 令和3年度は、令和2年度の研究内容に引き続き、これまでに合成している多段階のプロトン脱離が可能な鉄単核スピンクロスオーバー錯体の分子修飾について検討した。対称型配位子である、ピラゾール、ピリジン、ピラゾール部位をもつ3座配位子に、水酸化カリウム存在下、各種ハロゲン化アルキルを反応させることで、長鎖アルキル基を置換基としてもつ配位子を得、さらにテトラフルオロホウ酸鉄と反応させることで、アルキル基をもつ鉄単核錯体を得ることに成功した。鉄錯体は単結晶X線構造解析によって構造を明らかにした。ピラゾール部位に、アルキル基として、C4,C6,C8の炭素鎖を導入した鉄単核錯体を得た。どの化合物も100Kでは結合長・結合角から2価高スピン状態であることが明らかとなった。分子間には様々な相互作用が見られ、アルキル基を導入することによって、アルキル基を介して効果的に分子間相互作用が働き、様々なパッキング構造をもつことが明らかとなった。非対称型配位子と対称型配位子の構造と電子状態の違いを踏まえて、現在新しい配位子の設計と合成を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、柔軟なプロトン-電子状態をもつ低次元金属錯体を構築し、さまざまな外場応答性と動的機能を発現することを目的としているが、まず一次元相関をもつ化合物を目標として研究を進めた。特に、アルキル鎖に着目し、分子構造と電子状態および、圧力依存性にどのような影響があるか確かめることに重点を置いて研究を進めている。当初予定していたイミダゾールーピラゾール部位をもつ配位子にアルキル基を導入する研究については、配位子の合成を検討している段階である。本年度は、ピラゾール、ピリジン、ピラゾール部位をもつ3座配位子の修飾を検討した。その結果、長鎖アルキル基を置換基としてもつ配位子を得、目標とする化合物に近いアルキル基をもつ鉄単核錯体を得ることに成功した。現在はこれらの化合物の物性測定と分子修飾を進めている段階であり、さまざまな外場応答性と動的機能をもつ材料開発に向けて順調に研究を行うことができていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、得られた錯体の磁化率測定、溶液中での安定性、界面での挙動を検討する。また、結晶溶媒の違いにより、電子状態が変わることが示唆されたため、様々な溶媒をもちいて結晶化を行い、分子構造および電子状態について評価する。今後は、これまでに得られた錯体の温度依存磁化率測定を行い、より良い物性変化を示す分子設計指針を確立する。電子状態は溶媒や対イオンによって大きく影響を受けるため、今後の各種物性測定に適していない場合は、溶媒の変更、対イオンの変換を行う。今後はピラゾール部位のプロトンを解離性プロトンとして残すために、反応試薬の量を減らして合成を試みる。解離性プロトンをもつ対称型配位子をもつ錯体が得られた場合は、塩基をもちいて脱離させたときの鉄イオンの電子状態変化について、電気化学測定、および紫外可視吸収スペクトル測定によって調べ、柔軟なプロトンー電子応答性があるかどうか調べる。
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Causes of Carryover |
目標とする化合物がいくつか得られたため、当初、合成条件検討を行う予定にしていた期間に、物性測定を行う必要が生じた。そのため、購入を計画していた試薬類・ガラス器具類を次年度以降に購入する予定へと変更したため、当該助成金の次年度使用額が生じた。次年度は、物性測定の結果をもとに、より良い化合物合成を検討する予定であるため、使用予定であった試薬類・ガラス器具類を購入する計画である。
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Research Products
(14 results)