2020 Fiscal Year Research-status Report
地上部の窒素栄養状態を根に伝達する長距離シグナルの解明
Project/Area Number |
20K05771
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
蜂谷 卓士 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 助教 (80709311)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 長距離シグナル / 窒素充足応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題研究は、シロイヌナズナにおける地上部の窒素充足状態を根に伝達する移動型シグナルの同定を目指している。本年度は、シグナル候補であるリプレッサーXのmRNAについて解析を進めた。 まず、リプレッサーXの発現誘導にともなって、リプレッサーXのmRNAが地上部から根に移動し、根のターゲット遺伝子の発現を制御する可能性を検証した。タグ付きリプレッサーXのエストラジオール誘導型形質転換株の穂木をリプレッサーXの破壊株の台木に接いだ植物を作成し、Mock処理とエストラジオール処理を施した後、根のmRNAレベルを解析した。その結果、エストラジオール処理した植物体の根では、タグ付きリプレッサーXのmRNAが検出され、リプレッサーXに制御されるマーカー遺伝子の発現がMock処理と比べて抑制された。このことから、リプレッサーXのmRNAが、発現誘導にともなって地上部から根に移動して機能することが示唆された。次に、地上部の窒素栄養状態の充足によってリプレッサーXが発現誘導されたときに、リプレッサーXのmRNAが地上部から根に移動しターゲット遺伝子の発現を制御することを検証した。野生株とリプレッサーXの破壊株を相互接ぎ木し、高窒素処理を施した後、mRNAレベルを解析した。その結果、野生株を穂木、リプレッサーXの破壊株を台木とする植物の根において、リプレッサーXのmRNAは検出されなかった。先行研究から、リプレッサーXのmRNAの移動は成熟個体で生じることが示唆されている。このため今後は、現在の若齢個体ではなく成熟個体を用いて解析を進めることにした。これに先んじて、成熟個体の栄養操作を非破壊的に実施できる実験系を構築し、実験系の有効性に関する論文を専門誌に出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
地上部で発現誘導されたリプレッサーXのmRNAが地上部から根に移動し、ターゲット遺伝子の発現を制御する可能性が示唆された。しかし、窒素栄養充足によるリプレッサーX mRNAの地上部から根への移動に関するエビデンスは得られなかった。一方、成熟個体を用いたリプレッサーX mRNAのさらなる解析に向けて新規実験系を構築し、その成果を専門誌に公表することができた。本実験系は本課題研究全ての解析に適用可能であり、研究の進行を格段に加速させることができる。以上のことから、おおむね順調に進展している、と自己判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
新規実験系を利用してリプレッサーX mRNAのさらなる解析を進める。野生株、リプレッサーXの破壊株、リプレッサー破壊株にGFP融合リプレッサーXを発現させた株の相互接ぎ木植物を作成し、窒素充足処理後にリアルタイムPCR・トランスクリプトーム解析、ウエスタンブロット、共焦点レーザー蛍光顕微鏡観察を実施する。これらの解析により、窒素充足時にリプレッサーXのmRNAが地上部から根に移動し、根の細胞内でタンパク質に翻訳され、核内でターゲット遺伝子を制御する可能性を検証する。また、もう一つの有力な長距離シグナル候補である植物ホルモンについても解析を進める。ホルモンの生合成変異株、ホルモン応答性プロモーター:GFP株などの相互接ぎ木植物を作成し、窒素充足処理後に地上部と根の遺伝子発現解析、蛍光顕微鏡観察、さらに地上部、根、師管内のホルモン分析を実施する。これらにより、窒素充足時に地上部で合成された植物ホルモンが根に移動し、シグナルを伝達する可能性を検証する。
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