2021 Fiscal Year Research-status Report
地上部の窒素栄養状態を根に伝達する長距離シグナルの解明
Project/Area Number |
20K05771
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
蜂谷 卓士 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 助教 (80709311)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 長距離シグナル / 窒素充足応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はシグナル候補の一つであるサイトカイニンについて解析を進めた。まず、野生株(WT)、サイトカイニン合成酵素欠損株(ipt3)、サイトカイニン合成酵素三重欠損株(ipt357)、硝酸還元酵素二重欠損株(NR-null)、硝酸還元酵素サイトカイニン合成酵素三重欠損株(ipt3 NR-null)を用いて、WT/ ipt357、ipt3/ipt357、NR-null/ipt357、ipt3 NR-null/ipt357(穂木/台木)の4種類の接ぎ木植物を作成した。次に、昨年度構築した非破壊的栄養操作系を用いて、これらの植物に硝酸イオンを蓄積させた後、窒素欠乏条件で栽培し、地上部と根を回収して分析に用いた。WT/ipt357、ipt3/ipt357と比べてNR-null/ipt357とipt3 NR-null/ipt357の地上部では硝酸イオン濃度が高かった。一方、全ての接ぎ木植物の根で硝酸イオン濃度は低かった。また、WT/ipt357と比べてNR-null/ipt357の地上部でIPT3の遺伝子発現レベルが高かった。接ぎ木植物の栽培栄養条件を操作することによって、地上部の硝酸イオンの蓄積レベルとサイトカイニン合成酵素の発現レベルを制御することができた。 次にWTとサイトカイニン受容体二重欠損株(ahk2,3)の接ぎ木植物(WT/WTとWT/ahk2,3)を窒素十分条件で栽培し、根におけるサイトカイニンの受容が成長、遺伝子発現、サイトカイニン濃度に与える影響を調べた。その結果、WT/WTと比べてWT/ahk2,3では、根におけるサイトカイニン合成酵素と分解酵素の遺伝子発現がそれぞれ誘導、抑制され、根と地上部におけるサイトカイニン濃度が増加し、地上部の成長が促進された。地上部から根へのサイトカイニンシグナルの伝達が根だけでなく地上部の応答も引き起こす可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野生株、サイトカイニン合成酵素欠損株、硝酸還元酵素二重欠損株、硝酸還元酵素サイトカイニン合成酵素三重欠損株と、サイトカイニン合成酵素三重欠損株の間の接ぎ木に成功した。さらに接ぎ木植物の栽培栄養条件を操作することによって、地上部の硝酸イオンの蓄積レベル(内的な窒素栄養状態)とサイトカイニン合成酵素の発現レベルを制御することができた。「根特異的なサイトカイニン受容の欠損が地上部の成長を促進する」現象を見出し、それに関する解析成果を査読付き国際学術誌に公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
硝酸イオンの蓄積した地上部で誘導されたIPT3が、地上部と根のサイトカイニン分子種の濃度に与える影響を解析するために、4種類の接ぎ木植物の地上部と根のホルモノーム解析を進める(すでに3回独立の接ぎ木実験からのサンプルを回収済)。篩管液のサイトカイニン分子種の濃度についても解析を進める。また、地上部で誘導されたIPT3が、地上部と根のトランスクリプトームに与える影響を解析するためにRNA-Seq解析も進める(すでに3回独立の接ぎ木実験からのサンプルのcDNAライブラリを調製済)。特に重要な遺伝子については定量PCRとウエスタンブロットによる発現解析もあわせて実施する。また、ProIPT3:GFPを導入したWTとNR-nullを用いて、地上部に硝酸イオンが蓄積したときにIPT3がどこで誘導されるのかを解析する。TCS:GFP(サイトカイニン応答エレメント:レポーター)を導入したWTとNR-nullを用いて、地上部に硝酸イオンが蓄積したときにサイトカイニン応答がどこで誘導されるのかについても精査する。
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