2020 Fiscal Year Research-status Report
Effects of salt consumption by the scent of food and spice
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20K05945
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
長田 和実 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (00382490)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 匂いによる適塩作用 / 揮発性成分 / 嗅覚 / 食品機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は減塩を促進する食品中のにおい物質の解明とその作用機構を明らかにすることである.乾燥オレガノから発せられる揮発性成分をHS-SPME およびGC-MSで分析した結果200種類以上の揮発性化合物が分離され,そのうちCarvacrolは全体の約60%を占める主要成分であった. 行動実験にはC57BL/6jマウス(メス)3匹1グループ計10グループを用いた.二瓶選択実験(滅菌精製水vs0.15MNaCl水溶液)を24時間実施した.本実験開始前にオレガノの匂いに汎化させた.無臭の環境で二瓶選択実験を行った(Control). その後,我々が考案した気相中の匂い物質濃度の測定技術を用いてマウスケージ内に24時間一定濃度の匂いを発生させるシステムを構築し,オレガノ臭【Carvacrol換算で0.2~3pmol/mL(air)】暴露時の食塩水摂取量の変化を測定した. その結果,食塩水の摂取量及び摂取率が有意に低下した(P<0.02;Wilcoxon test).一方水の摂取量は有意に増加し,総節水量は変化しなかった.この結果は,オレガノの匂い成分の中には食塩水摂取量を抑制し,代償的に水の摂取量を上昇させ,体液量を保持する機構が関与していることが示唆された.また同濃度のCarvacrol単独暴露でも効果は確認され,活性成分を同定した.一方,山椒の匂いでは食塩水摂取量は有意差がみられなかった. ベーコンの燻煙臭を提示した場合,食塩水の摂取量は有意に低下したが,一方オレガノで見られたような水の摂取量の上昇は見られず,総節水量は食塩水の摂取量の低下に伴い低下した.この結果は食塩水の摂取調節機構が異なっていることを示唆している.また醤油についても同様の検討を行い,再仕込み醤油の匂いに特徴的な減塩作用が確認され,その活性成分の候補成分の同定を行っている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
匂い成分は加工食品としてベーコン,再仕込み醤油,白醤油を,香辛料として山椒,オレガノ,ペッパーなどの香辛料を用い,主にHS-SPME法を用いて匂い成分を抽出しGC-MS分析実験と動物行動実験の組み合わせにより活性物質を探索した.分析実験による各食品それぞれの匂いを構成する揮発性物質の分離・同定はほぼ終了している. 匂い成分の生理活性を正確に測定する目的より,動物ケージ内に一定の気相濃度を長時間継続して提示できる匂い発生器と匂い測定システムを構築した.動物行動実験はC57BL/6jマウスを用い,NaCl水溶液(0.15M)と水を同時に与え,二瓶選択実験を行なった(24hr). その結果,オレガノ,ベーコン燻煙臭,再仕込み醤油などの匂いは食塩水摂取抑制活性があることが証明され,一方山椒や白醤油には活性がないことが示唆された.中にはオレガノのように既に活性成分(carvacrol)が同定された例もある.また再仕込み醤油の活性成分の候補物質も数種類に絞り込んでおり,おおむね順調に推移している. 定量PCR の測定系はすでに稼働しており,中枢組織でのオキシトシン受容体,ENaC,アンジオテンシン受容体Ⅱあるいはそのリガンドの発現量の定量が可能で一部検討が進んでいる.またFos陽性細胞の免疫組織学的研究は使用していた一次抗体が製造中止となり,代替品の選定に手間取ったものの,使用可能な抗体を見出した.その後の条件設定は順調に進捗している.今後のメカニズム解析に重要な役割を果たし,今年度の研究に格段の進捗が期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの研究でオレガノ,ベーコン,再仕込み醤油などの匂い成分に食塩水摂取抑制物質が含まれていることを明らかにし,その活性成分の同定もかなりのペースで進んでいる.本年度は以下の観点より研究を進捗させていきたい. 匂い成分の作用メカニズムの解析:免疫組織化学的手法を用い,体液の浸透圧の中心的な監視装置である感覚性脳室周囲器官(sCVOs) 脳弓下器官 (SFO) 終盤血管器官(OVLT), SFOにある細胞集団から連絡を受ける特定の脳領域である OVLT, 正中視索前野 (MnPO), 室傍核 (PVN), 視索上核 (SON),(Matsuda et al. 2017 Nat Neurosci 20, 2, 230) さらに塩味嗜好と嗅覚刺激のいずれにも深い関連のある扁桃体内側核(MeA), 扁桃体中心核 (CeA), 分界条床核,など体液中の電解質調節に関与する脳領域と塩味の嗜好発現に関する領域に着目し,塩味摂取と匂い提示によりFos 発現が変化する部位を明らかにする.さらにこれらの中枢の食塩調節作用を持つ遺伝子であるオキシトシンーオキシトシン受容体系,レニンーアンジオテンシン系などに関与する受容体及びリガンドの遺伝子発現を定量PCRあるいはElisaで解析する.これらのアプローチによりにおい物質による減塩メカニズムの解明に挑む.とりわけベーコン燻煙臭では,オレガノなどで見られる食塩水摂取低下と水の代償的摂取増加パターンが見られないことからそのメカニズムの違いを明らかにしたい. それに加え,以下の点を検討したい.オレガノの活性成分であるCarvacrol analoguesを用い,食塩水摂取低下作用の構造活性相関を検討する.再仕込み醤油,ベーコンなどのにおい成分の活性成分を明らかにする.ナトリウム欠乏食を与えたより食塩水の嗜好が高い動物モデルを用いて活性の確認を行う.
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由は以下のとおりである.1年目はマウス行動実験と匂い成分の分析実験を主に行った.分析実験は予定よりもスムーズに進行し,カラムやSPMEなど分析用消耗品の購入が予定よりも少なかった.同様にヘリウムガスの使用量も予定の半分程度であった.また匂い発生装置は当初はポンプや遮蔽用活性炭などの使用が見込まれたが,プラスチックシャーレを用いた自作の匂い発生装置が有効であった.同様に2瓶選択実験用の選択瓶が予想以上に高価である上に機能的にも問題があったため,すべて50ml遠心管と給水ノズルからなる自作の選択瓶に変えた結果,円滑かつ正確な選択実験が実現した.これらの変更がコストを削減した. 一方,免疫組織化学的検討を1年目より始めようと計画していたが,使用予定のウサギポリクローナル抗体がメーカー製造中止で,一時期満足な条件検討が行えず免疫抗体のキットの購入量が減った. 次年度の使用予定は抗体の使用にめどが立ったので,免疫組織化学に関する試薬およびキット,周辺機器などの購入に充てる予定である.また食塩水摂取抑制作用の評価系が確立したため,より多くの食材の匂いの解析及び動物実験による評価を実施する予定であり,マウスの購入・維持消耗品数も大幅に増加することが見込まれ,次年度繰越金を充当したいと考える.
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