2020 Fiscal Year Research-status Report
種子吸水性と冠水害の新規評価法に基づくダイズの種子冠水抵抗性の効率的評価法の確立
Project/Area Number |
20K05996
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
萩原 素之 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (90172840)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ダイズ / 発芽 / 冠水 / 吸水 / 種皮外観 / 濁度 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.吸水中断種子の吸水量(A)と乾燥処理による水分減少量(E)の比(E/A)に及ぼす種皮外観および種子の初期含水率の影響 研究代表者のこれまでの研究で、E/Aは過湿条件でのダイズの発芽生長と有意な正の相関を示すことを明らかにしてきた。E/Aの測定自体は容易であるため、E/Aは種子冠水抵抗性の有用な評価指標と考えられる。しかし、この成果は整粒および種子の初期含水率を調整した種子のみを対象にして得たもので、種子選別や含水率調整の時間と労力の問題が残っていた。そこで、a) 種皮外観(整粒、傷粒、しわ粒、汚れ粒)、b) 初期含水率、とE/Aの関係を調査した。その結果、a) 傷粒、しわ粒、汚れ粒のE/Aはいずれも整粒のE/Aと有意な正の相関関係にあるが、整粒のE/Aとの値の差は傷粒>汚れ粒>しわ粒であったため、少なくとも傷粒と汚れ粒の選別が必要と判断された。一方、b) 初期含水率とE/Aの間には一定の関係が認められなかったため、水分調整は省略できると判断された。
2.種子冠水抵抗性を簡便・迅速に評価できる新規手法の探索 当初、種子浸漬期間中の種子からの糖溶出と種子呼吸速度の関係の解析により、種子冠水抵抗性の要因を探る計画であり、糖溶出の重要性について以前と同様の成果を得た。しかし本手法は簡便・迅速とは言えないため、種子浸漬液の濁りに注目した。「濁度」は、液体中の有機物量、ひいては微生物量の簡易評価指標として活用されている。種子浸漬液の濁度を経時的に測定した結果、濁度上昇は種子冠水抵抗性が高い品種ほど小さく、濁度上昇は糖溶出量と対応した。また、糖溶出に遅れて濁度が上昇したことから、種子からの糖溶出が微生物増殖(種子への微生物害)を招き、発芽生長の阻害に至ることが示唆された。濁度測定は短時間で行えることから、種子冠水抵抗性の迅速で簡便な評価法として有望と考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.E/Aによる種子冠水抵抗性の簡易評価の実用性向上 研究代表者の研究で、E/Aは種子冠水抵抗性の評価指標として、他研究者らが従来提唱した評価法に比べて優位かつ有用であることを示してきたが、種子選別と種子含水率の調整を要するという点では差がなかった。しかし、今年度の研究で、E/Aによる評価の場合、種子の初期含水率の調整を省略できることが示され、本評価法が従前の評価法に対して優位性を持つことを明らかにした。また、評価精度の確保には、傷粒と汚れ粒の選別除去が必要なことを明らかにしたことは、本評価法の有効な実施条件を明らかにした点で重要な成果である。 2.種子浸漬液の濁度による種子冠水抵抗性の簡便迅速評価 当初の研究計画にはなかった、種子浸漬液の濁度測定による種子冠水抵抗性の簡便評価の有望性が示されたことは、計画を上回る大きな成果と言える。E/Aの測定には1品種当たり45分間程度を要する。これに対して濁度測定は、種子浸漬液の濾過処理を行う場合は濾過に1分間程度(濾過不要の場合もあり)、その後、分光光度計での測定なら数分、濁度計を用いれば10秒程度で測定可能と思われ、調査に要する時間が大幅短縮される。本研究課題の核である、冠水抵抗性品種・系統を効率的に選抜できる手法の開発という観点から見て、種子浸漬液の濁度測定は、研究実績の概要にも記載したように、種子冠水害の発生メカニズムとの関連が充分かつ明確に想定できるという点も含めて、これまでに提唱された手法よりも明らかな優位性を持つと言える。
一方、本研究課題のうち「冠水害の新規評価法」に関しては遂行に必須の測定機器が故障した。購入の発注をしたが、メーカーのあるアメリカでの新型コロナ感染症の影響(後述)で、修理も新規入手もできない状況となり、この課題について今年度は遂行不能となった。以上を総合し、「概ね順調に進展している」と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、以下の2つのテーマを中心に研究を進める。研究に当たっては、長野県野菜花き試験場が保有するダイズ遺伝資源の活用により研究を加速させるため、試験場との研究連携を図る。
1.接触角計による種皮の吸水特性の超迅速評価 種子冠水抵抗性の超迅速評価法の確立を目指して、接触角計を新規購入し、種皮の撥水性の評価を試みる。接触角とは物体表面に水滴を滴下した時の水滴と物体とがなす角度で、種皮の撥水性が高ければ、種皮の吸水性は低いと推察される。種子の吸水、特に初期吸水に大きく関わると考えられる種皮の撥水性は、接触角計を用いれば10秒程度で評価できると見られる。しかし、接触角計を種皮の撥水性の評価に利用した例は見当たらないため、まず、的確な測定データを得るための測定プロトコルを確立する。その後、接触角計による種皮撥水性のデータを収集するとともに初期吸水のデータと突合し、整合性を検討する。接触角測定による種皮透水性の超迅速評価は、長時間の種子浸漬を必要としない、種子冠水抵抗性の超迅速評価法として有用性が高いと期待できるため、実用化の基礎となるようなデータ収集を図る。 2.種子浸漬液の濁度測定による種子冠水抵抗性の評価 濁度測定による種子冠水抵抗性評価について、供試品種・系統の増加を図ってデータ収集量を増やすことにより、本評価法の精度を向上させ、実用性を高める。本評価法の検討過程で、黒ダイズ品種では種子浸漬液の濁度上昇が小さいことを認めたため、黒色種皮が濁度変化や過湿条件での発芽生長に及ぼす影響を調査する。黒色種皮が種子浸漬液の濁度変化に影響するのは、種皮に多くのポリフェノール類が含まれるためではないかと推察されるため、ポリフェノール類の化学分析により、黒ダイズ品種における過湿条件での発芽生長の阻害抑制とポリフェノール類との関係を検討する。
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Causes of Carryover |
過湿条件下で発芽したダイズ幼植物は強い生育障害を受ける。冠水害の新規評価法として、生育阻害程度を簡便に圃場で評価することを目的に、従来の携帯型クロロフィル蛍光測定機よりも大幅に小型・軽量化かつ低価格化されたもの(製品名 MultispeQ)の購入を予定していた。本機は、生育阻害からの回復を図る手法としてクロロフィルの前駆物質であるアミノレブリン酸施用の効果を圃場で調査するのにも有用と考えていた。 本製品の販売代理店は日本には現在ないため、アメリカ ミシガン州にあるPHTOSYNQ社に2020年5月20日に発注したが、新型コロナ感染症がアメリカで猛威を振るった影響で製造ラインが長期にわたり止まるなど、製品生産に著しい遅延が生じ、令和2年度内に納品されなかった。また、本製品はWebでのクレジットカード払いによる購入のみ可能であり、研究代表者個人のクレジットカードで購入代金は支払い済みであるが、納品されないため、立替払いの会計処理ができない状況である。 現有の1台の故障修理も困難な状況であり、令和3年度の早期に発注品の納品の見込みがなければ発注をキャンセルするとともに、研究計画の一部を変更して、今年度の研究計画の遂行に必要となる物品(濁度計やポリフェノール類の化学分析に要する薬品)購入に充てる。
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Research Products
(1 results)