2020 Fiscal Year Research-status Report
アジサイの種分化における耐塩性獲得過程の解明と耐塩性育種素材の開発
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20K06022
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
半田 高 明治大学, 農学部, 専任教授 (00192708)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 将 明治大学, 研究・知財戦略機構(生田), 特任講師 (30815816)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アジサイ / 耐塩性 / 遺伝的多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究材料の調査と採取において,ガクアジサイでは種分化と耐塩性に関係する伊豆半島東部地区の野生集団について,形態調査と材料採取を行った。その結果,伊豆半島東部には海岸近くのガクアジサイとは異なる形態を持つ野生集団が内陸部の集団で観察され,ヤマアジサイとの遺伝子浸透が推察されたが,形態については今後可塑性を考慮する必要がある.ヤマアジサイでは,西日本型のうち,近畿・九州地方の一部野生集団について材料を採取したが,開花時期での形態調査はできなかった。いずれも採取した材料は,挿し木により苗を育成した. ヤマアジサイの採取した葉から抽出したDNAを用いて実施した核SSR解析では,ストラクチャー解析のクラスター分配確率から,ヤマアジサイは①済州島,②九州・京都,③北陸,④中部,⑤南関東,⑥北関東の6つに分かれた.また,主座標分析では,東日本型内で,北・南関東,中部,北陸が分かれ,さらに西日本型の韓国・九州・京都は東日本型と分かれた.しかし,東日本型の北陸集団の一部は西日本型と近縁な遺伝関係となり.一方,東日本型の中部・北・南関東集団は西日本型とは遺伝的に明確に異なる結果を示したことから,ヤマアジサイが分布域を日本の南西部から拡大する過程で,山地などの地形や地理的な隔離によって集団間での遺伝子移入が少なくなった結果,遺伝的分化が進んだと考えられた. 耐塩性試験については,ガクアジサイ,ヤマアジサイ,エゾアジサイの自生地集団の一部から挿し木繁殖したクローン個体に対して,数段階の塩水濃度の土壌へと葉面への散布試験による耐塩性環境ストレス試験を実施した.その結果,ガクアジサイの高度な耐塩性を確認した.また,塩水処理の方法と濃度を変えた試験により,3種・変種の野生集団と園芸品種における耐塩性程度について検討し,種・亜種間における反応の違いを確認できる処理方法と処理濃度について明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
ヤマアジサイの野生集団自生地における形態観察と材料採取は,新型コロナウィルスの蔓延による行動制限により,当初予定していた候補地で実施することができなかった.制限解除後に実施した一部西日本型ヤマアジサイの材料採取においても,開花後であったため,当年での花の形態観察は行えなかった.しかし,採取した個体から得た挿し木苗は育成できたため,今後ex situで花の観察も行う予定である。 また,ガクアジサイの野生種自生地についても,当初は伊豆半島全域で形態観察と材料採取を実施する予定であったが,伊豆半島東部のみで実施し,ヤマアジサイの遺伝子浸透によると思われる形態変異を持つガクアジサイの個体を確認し,挿し木苗を作成することができた. これらの材料については,今後遺伝子マーカーを用いた解析を行うとともに,耐塩性試験の材料として使用する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
前年に予定していた候補地でヤマアジサイ野生集団の形態観察と材料採取を実施し,ヤマアジサイの多様性について明らかにすると共に,ガクアジサイ,ヤマアジサイ,エゾアジサイとの遺伝的関係性について詳細に検討する.このためには,これまで使用しているガクアジサイ由来の遺伝子マーカーに加えて,新たにヤマアジサイ由来の遺伝子マーカーを開発することで,ヤマアジサイとその変種であるエゾアジサイについてより精密な解析が可能となる. 前年に挿し木で育成した個体については,形態の可塑性を判断する材料として同所的に栽培して形態観察すると共に,耐塩性試験の材料としても使用する. 耐塩性試験では,前年度に明らかにした処理方法と処理濃度を用いた試験を実施し,耐塩性の異なる程度を3種・変種の各野生集団ごとに評価する.耐塩性の異なるものでは,その原因を明らかにするため,クチクラ層の状態,気孔活動,葉身組織の壊死などについて顕微鏡観察を行うと共に,適合溶質の変化を測定する.
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Causes of Carryover |
前年度は新型コロナウィルスの蔓延により,当初予定していた旅費を使用する研究材料の調査と採取がほとんど実施できなかった.また,これに伴い物品と謝金の使用も制限され,多くを繰り越すこととなった. 本年度は当初予定していた旅費を用いた調査・採取を行うと共に,新たな遺伝子マーカーの開発と,耐塩性試験を実施する予定である.
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