2021 Fiscal Year Research-status Report
アジサイの種分化における耐塩性獲得過程の解明と耐塩性育種素材の開発
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20K06022
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
半田 高 明治大学, 農学部, 専任教授 (00192708)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 将 明治大学, 研究・知財戦略機構(生田), 特任講師 (30815816)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アジサイ / 耐塩性 / 遺伝的多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
アジサイ野生種における耐潮性機構の解明を目的とし、挿し木繁殖で同所的に育成したガクアジサイとヤマアジサイの個体を材料に、NaCl溶液の葉面散布による試験を実施した結果、NaCl溶液の葉面散布により、ガクアジサイでは500mMNaCl処理区においても障害程度は葉面積当たり25%未満に収まった。一方、ヤマアジサイは100mMNaCl処理区においてガクアジサイの500mMNaCl処理区と同等以上の葉の障害が認められた。葉身へのNa+侵入量の評価では、ガクアジサイはヤマアジサイより侵入量が有意に低く葉内へNa+が侵入しにくかった。クチクラ層の厚さは、ガクアジサイの葉両面のクチクラ層はヤマアジサイの2倍近く厚かったことから、ガクアジサイは発達したクチクラ層による葉内への塩類の侵入を物理的に制限することで、葉の障害発生を抑制していることが示唆された。 切り葉への塩水浸透試験による簡易的耐塩性評価方法を開発して3種・変種で検討した結果、ガクアジサイは高い耐塩性を示し、ヤマアジサイとエゾアジサイでは塩処理後の葉に壊死した部分が見られ、また地域集団・個体間で障害程度に違いが認められた。 新たな調査で追加したヤマアジサイ野生集団の形態形質と核・葉緑体SSR解析の結果を含めて実施した結果、形態形質の主成分分析で3種・変種は分かれる傾向がみられ、核SSR解析では、ヤマアジサイのグループと、エゾアジサイ・ガクアジサイのグループは大きく2つに分かれた。さらに、ヤマアジサイは韓国と西日本型が一つにまとまったのに対し、東日本型は中部・北陸集団と北・南関東集団の2つに分かれ、このうち北関東集団は、エゾアジサイ・ガクアジサイに最も近い遺伝的関係を示した。葉緑体SSRの解析結果は、ハプロタイプネットワークにおいて得られた11のハプロタイプ間が近縁な関係を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
昨年度から引き続く新型コロナウィルス蔓延による行動制限により、ヤマアジサイとガクアジサイの野生集団自生地における形態観察と材料採取は、当初予定していた候補地全てでは実施できなかった。しかし、西日本の一部地域で採取したヤマアジサイの個体から得た挿し木苗は育成できたため、今後同所的に育成した環境下での耐塩性試験を行う予定である。 また、ガクアジサイの野生集団自生地についても、当初は伊豆諸島および伊豆半島全域で形態観察と材料採取を実施する予定であったが、やはり一部集団でのみ現地での形態観察と材料採取して、挿し木苗を作成することができたことから、ヤマアジサイと同様に今後の耐塩性試験の材料として用いる予定である。 現在スクリーニングをおこなっているヤマアジサイの遺伝子マーカーを用いて、ヤマアジサイとその変種とされるエゾアジサイについて、より詳細な多様性解析を行う予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに挿し木で育成した個体については、形態の可塑性を判断する材料として同所的環境下で栽培して形態観察すると共に、新たに開発した耐塩性評価方法を用いた評価により、耐塩性の異なる程度を3種・変種について各地域の野生集団ごとに評価する。耐塩性の異なるものでは、その原因を明らかにするため、クチクラ層の状態、気孔活動、葉身組織の壊死などについて顕微鏡観察を行うと共に、適合溶質の種類と濃度を経時的に機器分析で測定することで耐塩性機構を解明する。また、耐塩性の強い個体については育種素材としての可能性を検討する材料に用いる。 前年度までに予定していた調査候補地において、ヤマアジサイ、エゾアジサイ、ガクアジサイの野生集団の形態観察と材料採取を実施することで、ヤマアジサイの多様性と耐塩性獲得過程を詳細に検討すると共に,ガクアジサイ、ヤマアジサイ、エゾアジサイとの遺伝的関係性についても明らかにする。このため、これまで使用しているガクアジサイ由来の遺伝子マーカーに加えて、新たにヤマアジサイ由来の遺伝子マーカーを開発中であり、この遺伝子マーカーを用いることで、ヤマアジサイとその変種であるエゾアジサイについて、より精密な類縁関係や遺伝的多様性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの蔓延による移動制限により、当初予定していた自生地での調査、分析材料、栄養繁殖(挿し木)に用いる穂木採取の計画を大幅に縮小せざるを得なくなくなった。このため、これらの調査・分析と、栄養繁殖後に同所的に育成する材料で予定していた耐塩性試験が実施できなかった。本年度は昨年度までに予定していた採取地での調査と分析・栄養繁殖材料の採取を旅費を使用して実施し、耐塩性試験を順次実施する。また、これまでの成果の一部について国内外の学会で発表し、学術誌への投稿をおこなう予定である。
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Research Products
(5 results)