2022 Fiscal Year Research-status Report
アジサイの種分化における耐塩性獲得過程の解明と耐塩性育種素材の開発
Project/Area Number |
20K06022
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
半田 高 明治大学, 農学部, 専任教授 (00192708)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 将 明治大学, 研究・知財戦略機構(生田), 研究推進員(客員研究員) (30815816)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アジサイ / 耐塩性 / 遺伝的多様性 / Naイオン / Kイオン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,強い耐塩性育種素材を簡易的に選抜するための新たな評価系を開発し, ガクアジサイ野生種およびその園芸種における耐塩性を評価した。その結果, ガクアジサイ野生集団間で障害率に違いが認められ,新島集団では葉身部の障害がほとんど確認されなかったのに対し, 青ヶ島集団では葉身部の障害が多い傾向を示した。また,ガクアジサイ系品種でも, 品種間で障害率に違いが認められ,強い耐塩性を示す3品種が選抜された。 また,ガクアジサイにおける耐塩性機構を明らかにするため, 塩ストレスの主要因であるNaイオンと, 拮抗作用するKイオンに着目し, 自生地から直接採取した葉内における蓄積量および挿し木苗を用いた塩処理後の組織内における分布を調査した. 調査の結果,自生地のガクアジサイは, 上位葉よりも下位葉に多くのNaイオンを蓄積し, 沿岸部と内陸部では下位葉のNa+量は沿岸部で多かったが, 上位葉は同程度であった. Kイオンも下位葉において蓄積量は多かったが上位葉との差は小さかった. そのため, 細胞内の恒常性に重要なNaイオン/Kイオン比は, 上位葉において小さく, 下位葉では大きくなった. 育成苗を用いた耐塩性試験では, Naイオンは頂芽葉身部および上位葉身部が下位葉身部よりも顕著に少なく, また, いずれの葉身部も葉柄+中肋部よりも顕著に少なかった. 以上の結果から, ガクアジサイは, 葉柄+中肋から葉身部へのNaイオンの移行抑制とKイオン量増加によるNaイオン/Kイオン比の維持を通して耐塩性を示すことが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナによる行動制限解除後に当初予定していたアジサイ野生種・変種の自生地における調査と材料採取を開始した。アジサイの開花期である2022年6-7月に調査・採取できた材料については,挿し木による研究材料の育成を行い、2022年の秋から同所的に栽培した育成苗を用いた耐塩性試験を開始している。このため,当初予定されていた実験計画からは約1-2年遅れて実験が進められている現状である。 この間に研究実績の概要で述べたような評価系の開発を行っており,今後は新たに開発した評価系を用いた実験を育成材料に対して行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに採取・育成した材料を用いて,新たに開発した評価系によるスクリーニングで耐塩性の異なる野生集団や園芸品種について,より詳細な調査を行う.具体的には根への塩水浸漬処理と葉への塩水散布により,NaイオンやKイオンの植物体内移動・蓄積状態やストレス耐性に関係する適合溶質の定量を行う。 また,昨年度までに得られた野生集団の実験結果を精査したところ,再調査や新たに調査・採取すべき地域が明らかになったことから,今年度はこれらの地域での調査と研究材料の採取を実施する。 さらに,アジサイ3種・変種の遺伝的多様性と耐塩性について,より詳細な情報を得るためにこれまで用いてきたガクアジサイ園芸品種由来のDNAマーカーに加えて,ヤマアジサイ野生種由来のDNAマーカーを用いた解析を行う。
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Causes of Carryover |
2021年度の新型コロナウィルスによる移動制限ならびに研究補助者の確保困難により,当初予定していた野生種自生地での調査や分析材料の採取が限定された。このため,これらの自生地から採取した材料をもとに栄養繁殖(挿し木)で得られる予定であった耐塩性試験の育成材料を用いる実験が2022年度に実施できなかった。本年度は2022年度に採取して栄養繁殖で育成した材料を用いた分析を行う予定である。また,2022年度に調査できなかった地域での調査と分析材料の採取も本年度実施予定である。
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Research Products
(9 results)