交雑育種によるダリアの日持ち性向上と良日持ちダリア系統の老化抑制機構の解析

2021 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 20K06026
• Research Institution: National Agriculture and Food Research Organization
• Principal Investigator: 小野崎 隆 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 野菜花き研究部門, グループ長補佐 (90355719)
• Co-Investigator(Kenkyū-buntansha): 東 未来 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (80783414)
• Project Period (FY): 2020-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: ダリア / 日持ち性 / 超長命性 / 日持ち日数 / 交雑育種 / 老化関連遺伝子

Outline of Annual Research Achievements

日持ち性による選抜と交配を3回行った第4世代等一次選抜系統86系統の日持ち性を再評価し、20系統を二次選抜した。第4世代選抜系統003-15の冬春期栽培の蒸留水での平均日持ち日数は、従来品種‘かまくら’の6.3日に対し、15.1日と超長命性を示し、高温下（28℃・GLA液）の平均日持ち日数も、系統003-15では11.2日と優れていた。さらに、良日持ち性品種化候補の2系統が得られた。2021年3月30日に良日持ち性系統交雑種子および自然結実種子合計1307粒を播種し、第5世代76個体、第4世代28個体を含む388個体を露地圃場へ定植した。9月10日までに開花した322実生の日持ち性を評価し、第5世代31系統を含む58系統を一次選抜した。第5世代、第4世代の平均日持ち日数は、それぞれ8.0日、6.4日と、第3世代の6.2日から、それぞれ0.2日、1.8日増加した。
良日持ちダリア系統の老化抑制機構を明らかにするため、2021年度に部分長配列を明らかにした4遺伝子（NAC4-4、NAC6-2、NAC7-4、NAC9-8）の発現解析を花のステージ別に行った。良日持ちダリア6系統と従来品種 ‘かまくら’を用い、開花2日前の蕾、開花日から開花後10日までの最外側の花弁をサンプルとし、リアルタイムPCRによる発現解析を行った。その結果、‘かまくら’では3～5日、良日持ちダリア系統はいずれも7～9日でNAC4-4、NAC6-2、NA9-8の発現量が増加した。一方で、NAC7-4は開花日と比較して顕著な変化は見られなかった。以上の結果から、良日持ちダリア系統ではNAC4-4、NAC6-2、NAC9-8等のNAC遺伝子の発現時期が、‘かまくら’よりも遅れることが明らかとなった。NAC遺伝子の発現の遅延が、良日持ちダリア系統の日持ちの良さの一因である可能性が考えられる。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

本研究の最終目標の一つに挙げていた超長命性を有する系統003-15が第4世代から新たに得られた。日持ち性は環境の影響が大きい形質であり、冬春期栽培での日持ち日数を二年間評価して、系統003-15の超長命性の再現性を検証したが、2021、2022年とも約14日の日持ち性を示し、超長命性に関して再現性を有していた。さらに、日持ち日数による選抜と選抜系統間での交配の繰り返しにより、第5世代での平均日持ち日数が第4世代に比較して1.8日と大きく増加した。したがって、ダリアの日持ち性向上を目標とした、選抜と交配による交雑育種法がダリアの日持ち性向上に非常に効果的であることが明らかになった。2020年に品種化した良日持ち性ダリア新品種エターニティシリーズの営利生産が2022年秋から開始予定であり、本研究でさらに日持ち性の向上した品種化候補の開発を進めていきたい。
老化関連遺伝子研究について、‘かまくら’および良日持ちダリア系統のプログラム細胞死（PCD）の開始時期を明らかにするため、DNAの断片化による細胞死の解析を行った。それぞれ開花日から開花後10日まで、最も外側の花弁を採取したDNAを用い、RNase処理後に3%アガロースゲルで電気泳動を行った。‘かまくら’では開花後1～２日でDNAの断片化が確認され、良日持ちダリア系統はいずれの系統でも開花後9日以降にDNAの断片化が確認された。さらに、花のステージ別に老化を促進する4種の候補遺伝子発現量の比較を行った。‘かまくら’では開花日と比較して開花3～5日目にNAC4-4、NAC6-2、NAC9-8の発現が上昇し、良日持ちダリア系統では7～9日目で発現が上昇することを明らかにした。以上の結果より、良日持ちダリア系統のPCD開始時期およびNAC遺伝子の発現時期が、‘かまくら’よりも遅れることを明らかにし、おおむね順調に進展している。

Strategy for Future Research Activity

日持ち性による選抜と交配を4回繰り返したダリアの第5世代においても、交雑育種による日持ち性のさらなる向上が認められ、第4世代から超長命性を有する系統が得られたため、2021年秋に第5世代選抜系統間での交配を多数行ったが、第6世代後代は得られなかった。ダリアは自家不和合性を有することが知られており、世代が進むにつれて遺伝的に近交になり、種子が得られにくくなった可能性がある。ただし、交雑時や種子登熟期の天候や気温等の影響も考えられるので、2022年度も第5世代選抜系統間での交雑の可否について引き続き検証を行う予定である。さらに、良日持ち性系統と一般品種との交雑によるダリアの日持ち性の遺伝性解明や、良日持ち性のメカニズム解明を進める予定である。2022年度はこれまでの成果を取りまとめて、積極的に学会発表や原著論文発表するなど、成果公表に取り組みたい。
老化関連遺伝子の発現比較について、NAC転写因子familyに属する複数の遺伝子発現時期が良日持ちダリア系統で遅れることが確認されたため、これらの遺伝子がダリアの花の老化に関与することが考えられた。しかしながら、良日持ち系統では、なぜこれらNAC遺伝子の発現が遅延するのか、その要因は不明である。2022年度は、良日持ち系統でNAC遺伝子の発現時期が遅れる要因を明らかにすることを目的とし、NAC4-4、NAC6-2、NAC9-8のゲノムDNA配列を明らかにし、 ‘かまくら’と良日持ち系統でNAC遺伝子の配列を比較し、変異の有無を確認する。また、NAC遺伝子の発現にエチレンが関係しているのかを明らかにするため、良日持ちダリア系統と従来品種で、エチレン処理あるいはエチレン作用阻害剤である1-MCP処理を行い、日持ち日数を調査するとともに、NAC遺伝子の発現量の比較を行う予定である。

Causes of Carryover

コロナ渦のため、2020年度の人件費が未使用になったこと、2020年度、2021年度に園芸学会出張旅費を支出予定であったが、2020年度は大会中止、2021年度はオンライン開催となったため、旅費が未使用になったこと等による。2022年度は、非常勤職員の人件費や学会出張旅費、ダリア研究材料の栽培と切り花の日持ち調査のための資材費として使用する計画である。