2020 Fiscal Year Research-status Report
Differences of microbiota and development of recovery methods from disbiosis of small mammals with different styles of coprophagy
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20K06095
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
篠原 明男 宮崎大学, フロンティア科学総合研究センター, 准教授 (50336294)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | マイクロバイオーム / 抗生物質 / 野生動物 / 絶滅危惧 / ディスバイオシス |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトにおける腸内細菌叢の重要性が明らかにされた現在、野生哺乳類においてもその重要性が共有されつつある。しかしながら多様な野生哺乳類の腸内細菌叢は未知な部分が多く、腸内細菌叢が乱れてしまった場合の対策もない。その一方で近年、哺乳類における腸内細菌の水平伝搬を担う機構として、食糞行動が再注目され始めた。本研究では小型哺乳類の食糞行動様式に着目して、腸内細菌叢が撹乱された際の回復方法を構築することを目的とした。 2020年度は野外捕獲を実施できなかったことから、研究室にて維持する系統の腸内細菌叢の解明をおこなった。まず、直接に肛門から食糞を行うハムスター類(Cricetinae)の腸内細菌叢を次世代シーケンサーによる16S rRNA遺伝子のアンプリコン解析によって明らかにした。本研究室では、10年以上にわたって、複数種が同一環境で同一の飼料によって維持されてきたが、その腸内細菌叢は均一ではないことが示された。少なくともハムスターの属レベル毎に特徴づけられる腸内細菌叢を保持していることが示された。また、糞の拾い食いを行うアカネズミ属のヨーロッパモリネズミ(Apodemus sylvaticus)を用いて抗菌薬の影響を投与方法毎に比較する動物実験を実施した。こちらについては2020年度は動物実験によるサンプリングまでとし、2021年度に次世代シーケンサーを用いた解析を実施する予定である。腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)を人為的に引き起こすモデルの作成方法を確定させたうえで、ディスバイオシスからの回復方法の構築実験に移行する。また絶滅危惧種の解析では、アマミトゲネズミ(Tokudaia osimensis)の飼育下に収拾したサンプルの解析を行った。その結果、アマミトゲネズミは飼育下において野生下に収拾したサンプルと比較すると腸内細菌叢が変化していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大防止を考慮して、移動を伴う野外調査を早々に断念した。しかしながら研究計画書において言及していたように本研究室の保持する野生由来バイオリソースを活用することで研究を遂行することが出来た。 治療目的に抗菌薬を投与した際に観察される腸内細菌叢の変化は、抗菌薬によるものか、疾病そのものによるのかを区別することは出来ない。そこで、まずはアカネズミ属のヨーロッパモリネズミを用いた試験を実施した。健康なヨーロッパモリネズミに抗菌薬を経口・被毛への塗布・皮下の3種類で投与した。それぞれ一般的な臨床で用いられる抗菌薬を選別し、その影響を明らかにする。実験プロトコルの見直し等を含めて、2020年度は動物実験とサンプリングで実験を終了した。回収したサンプルの解析を2021年度に進める予定である。アマミトゲネズミやアカネズミ属齧歯類では落ちている糞を食べる行動が観察される。ディスバイオシスからの回復方法は、この「糞の拾い食い」に着目した実験系から試験する。 一方で、ハムスター類は糞を肛門から直接に引き抜いて摂取することが知られている。ハムスター類は草食傾向の強い雑食性で、盲腸内細菌による発酵と食糞による発酵産物からの栄養摂取を活用していると考えられてきた。そのためハムスター類への抗菌薬投与はディスバイオシスを引き起こす可能性が古くから臨床獣医らの間で認識されてきた。2020年度はハムスター類の飼育下の正常な腸内細菌叢を明らかにした。今後、ヨーロッパモリネズミを用いた実験によって抗菌薬投与によるディスバイオシスの回復方法が構築出来た際には、その効果を本動物種を用いて食糞様式を超えて利用可能かどうかを検証する。 2020年度は、これら2つの実験を進行させつつ絶滅危惧種より収拾してきたサンプルの解析をも進めることが出来た。従って研究は順調に進行したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は小型哺乳類の腸内細菌叢を広く明らかにすると共に、小型哺乳類の食糞行動様式に着目しながら、腸内細菌叢が撹乱された際の回復方法を構築することを目的としている。腸内細菌叢の回復方法を構築するためには、腸内細菌叢をディスバイオシス状態に陥らせるモデルが必要となる。本研究では野生動物、絶滅危惧種の小型齧歯類を救護した際の抗菌薬投与によって生じるディスバイオシスをも想定していることから、より野生種に近いモデルが必要となると考えてヨーロッパモリネズミをモデルとした実験手法の構築を試みると共に、アマミトゲネズミの野生状態および飼育下の腸内細菌叢を明らかにした。これら2種は、いずれも落ちている糞を拾い食いすることが飼育下において観察されている。一方で愛玩動物として広く飼育されているハムスター類は糞を肛門から直接に摂取する。小型哺乳類の普遍的な腸内細菌叢の回復方法を構築するには前述した糞を拾い食いするヨーロッパモリネズミによる結果を、糞を肛門から直接食べる種にもフィードバックして検証する必要がある。ハムスター類については本研究室で維持する3属6種の正常な腸内細菌叢を複数種を用いて明らかにすることが出来たことから、今後は抗菌薬投与によるディスバイオシスからの回復方法に実験を移行させる。 本研究は小型哺乳類の食糞行動様式に着目しているが、本研究室の維持する系統には食糞行動様式が不明な種も多い。特に警戒心が強く、食糞行動を観察出来ていない種もいる。今後は、そのような種の食糞行動様式をも明らかにしていく実験が必要となると考えられる。2021年度も引き続き新型コロナウイルスによる影響下にあることから、野外捕獲よりも維持系統を用いた実験系を中心として研究を遂行していく予定とする。
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