2021 Fiscal Year Research-status Report
海洋性魚類の食物連鎖解明に資するエイコセン酸異性体組成のデータベース構築
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20K06199
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
安藤 靖浩 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (30261340)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | エイコセン酸 / 脂肪酸組成 / 異性体 / サバ / イカ / ハダカイワシ / 海域差 |
Outline of Annual Research Achievements |
海産魚の食性解明に資するエイコセン酸異性体組成のデータベース構築を目的として、表層および中層の中間捕食者に焦点を当てて日本近海で採集されたマサバ、サンマ、イカ3種、ハダカイワシ9種の合計105検体のエイコセン酸の6種の異性体(20:1n-15, n-13, n-11, n-9, n-7, n-5)の組成を決定した。 マサバとサンマの筋肉では20:1n-11と20:1n-9が主要異性体であった。これら2つの異性体の組成値は海域による差異が顕著であった。北西太平洋、三陸沖、福島沖では20:1n-11が全20:1の60%以上を占め最も割合が高かったのに対し、東シナ海では20:1n-9が60-80%と首位が逆転した。イカは外套膜では20:1n-9が90%以上であり海域間の差異は認められなかった。肝臓においても外套膜と同様に20:1n-9が最も高い割合であったが、それに次ぐ20:1n-11は三陸沖と石川沖で20-30%であったのに対し東シナ海は10%に満たず、海域間の違いが認められた。ハダカイワシの筋肉は、福島沖と東シナ海の4種で20:1n-9が60%以上で最も多かった。一方、三陸沖の5種は20:1n-9が多い2種と20:1n-11が多い3種に分かれ種間の違いが認められた。三陸沖のハダカイワシは種ごとに鉛直移動を行う水深が異なることが知られており、本研究の結果は深い生息域をもつ種で20:1n-11が優先することを示した。 以上、表層魚と中層魚は同一種あるいは近縁種であっても海域や水深によってエイコセン酸異性体組成が異なることを明らかにすることができた。異性体組成の海域差は太平洋と大西洋といった大洋間だけでなく、日本周辺でも認められることが初めて明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究課題は開始から2年目を終了した。初年度はエイコセン酸異性体の分析条件を確立し、今年度からはこれを適用することによって実際に海産魚の異性体組成を決定する段階に入った。今年度は表層と中層の中間捕食者に焦点を絞り分析を行った。予定していたカタクチイワシはエイコセン酸全体の含有量が少なく異性体組成のデータまでは得られなかったが、他のマサバ、サンマ、イカ、ハダカイワシは予定通りの分析を実施できた。その結果、予想された海域差が日本周辺の海域に見られることを明らかにし、さらに具体的にどの異性体が対応するかも捉えることができた。以上の点から研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は中間捕食者のエイコセン酸異性体の分析を行った。その結果を基軸に、今後はより低次および高次捕食者の分析に取り組む。具体的には、日本近海各海域で収集したクロマグロの仔魚・稚魚・未成魚・成魚の筋肉(成魚では肝臓・卵巣も)およびカイアシ類を中心とする多種の動物プランクトンを対象とし、年間100~150検体のペースで分析する。それらの結果に基づいて、低次から高次に至るエイコセン酸異性体の動態を明らかにし、捕食・被食の関係を推察して行く。
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