2020 Fiscal Year Research-status Report
硫化水素と活性酸素種、エチレンのアントシアニン蓄積における役割の解明
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20K06329
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
坂本 勝 近畿大学, 生物理工学部, 講師 (90446378)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 硫化水素 / レタス / 活性酸素種 / エチレン / アントシアニン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、植物において未解明である硫化水素シグナルの全体像を明らかにすることであり、その中でも植物の硫化水素シグナルに活性酸素種とエチレンが関与すると想定をたて、レタスのアントシアニン蓄積現象においてこの予測について3年間にわたり検証を行っている。本年度は、まず実験の基盤として、硫化水素の処理方法について検討を行った。硫化水素ドナーとして硫化水素ナトリウムを用い、スプレー処理や浸漬処理、間接暴露処理、水耕液処理などの方法を、処理時間・処理濃度を変えて検討した。その結果、浸漬処理と水耕液処理で硫化水素ナトリウム処理によりレタスのアントシアニン蓄積が促進された。しかし、浸漬処理では、冠水ストレスによりコントロールの水処理区でもアントシアニン蓄積が認められたことから、水耕液処理が硫化水素シグナルを効果的にとらえる最も適切な方法であると考えられた。また、処理濃度としては、0.3 mM硫化水素ナトリウム処理が最も低濃度で効果的にアントシアニン蓄積を促進することが明らかとなった。 次に測定方法の確立を試みた。硫化水素は既報のDTNB法を改良して検出を試みた。その結果、検量線の作成とレタス葉からの硫化水素の検出が可能となった。また、予備的なデータとして光照射によりレタス葉の硫化水素の増加も確認している。活性酸素種の検出は、組織学的な検出法としてDABを用いたレタス根の検出法を確立した。葉を用いたDAB法による活性酸素種検出は、すでに確立済みである。また、定量的な活性酸素種検出法として、ヨウ化カリウムを用いたレタス葉の活性酸素種検出法の確立も行った。さらに、レタス根の酸化ストレスの指標として根の酸素消費量を溶存酸素系を用いて検出する方法についても確立した。 また確立した処理法を用いて、活性酸素種を水耕液に処理することで、硫化水素処理時と同様にアントシアニン蓄積が生じることを確認している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、①実験条件の確立と②シグナル因子測定条件の確立の2つについて研究計画を立て、遂行した。①に関しては、硫化水素ドナーとしては、植物の硫化水素関連研究でもっとも多く用いられている硫化水素ナトリウムに絞り、実験条件について様々な検討を行い、硫化水素ドナーの水耕液処理が、もっとも効果的にアントシアニン蓄積を誘導し、かつコントロール区に影響を与えない処理法であることが明らかとなった。この結果、実験条件については、今後確立した手法で行う予定で、順調に実験が進んでいるといえる。 また、②の測定条件に関しても硫化水素と活性酸素種について検出法を確立することが出来た。酸化ストレスの指標である根の酸素消費活性についても測定法を確立しており、基本的には、これらの手法を中心にして、レタスの硫化水素誘導性アントシアニン蓄積現象の解明を行っていく予定である。 ①②のほかに③の薬理学的手法によるシグナル解析の一部についても本年度行う予定であった。予備的な結果ではあるが、硫化水素シグナルに関わると想定している活性酸素種を水耕液に処理することでレタスのアントシアニン蓄積が促進されることを確認しており、この結果が今後の薬理学的手法の解析につながると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は薬理学的手法を用いて、詳細にレタスのアントシアニン蓄積現象を解明する予定である。2020年度に確立したシグナル因子測定法を用いて、硫化水素処理時の活性酸素種生成量や酸化ストレスについて、多方面から分析する予定である。また、2021年度に蛍光顕微鏡を購入予定であることから、蛍光試薬を用いた活性酸素種や硫化水素の検出も検討する予定である。さらに遺伝子発現解析について、RNA抽出とRT-PCRによるアントシアニン合成関連遺伝子の発現解析の予備な実験を行い、2022年度に詳細な研究をする予定である。2022年度に予定していた他のアントシアニン誘導シグナルに与える影響の解析については、予備的な実験で、活性酸素種自体がアントシアニン蓄積を誘導することを確かめており、一部これらの研究について前倒しで行う予定である。
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Causes of Carryover |
以前の予備実験で使用した栽培装置や、研究試薬、栽培用備品の余りをを2020年度の研究に利用することが出来たため、消耗品を消費せず実験を行うことが出来た。そのため、物品費は、卓上型人工気象器のみとなったため、消費額が少なくなった。2021年度には、2022年度に行う予定であった「他のアントシアニン誘導シグナルに与える影響の解析」についても一部先行して試験を実施する予定で、翌年繰り越し分はこれらの研究に必要な栽培装置、試薬の購入に充てる予定である。
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