2021 Fiscal Year Research-status Report
硫化水素と活性酸素種、エチレンのアントシアニン蓄積における役割の解明
Project/Area Number |
20K06329
|
Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
坂本 勝 近畿大学, 生物理工学部, 講師 (90446378)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 硫化水素 / レタス / 栄養欠乏 / アントシアニン / 活性酸素種 / エチレン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、植物において未解明である硫化水素シグナルの全体像を明らかにすることであり、その中でも硫化水素処理によりレタスに誘導されるアントシアニン蓄積現象に関して、その現象の詳細の解明とシグナル因子の探索を行うことである。昨年度は、実験の基盤として、硫化水素の処理方法について検討を行い、硫化水素ドナーとして硫化水素ナトリウムを用い、スプレー処理や浸漬処理、間接暴露処理、水耕液処理などの方法を、処理時間・処理濃度を変えて検討し結果、水耕液処理で硫化水素ナトリウム処理によりレタスのアントシアニン蓄積が促進されることを確認した。 本年度、処理条件を検討したところ、本実験の硫化水素誘導性アントシアニン蓄積現象は、培養液処理下では顕著な蓄積は生じず、栄養欠乏条件(水処理)下で顕著な蓄積現象が認められた。そこで、この栄養欠乏時のレタスの生理的な変化を観察したところ、栄養欠乏単独でもアントシアニン蓄積が誘導されることが明らかとなった。また、栄養欠乏時の硫化水素を定量したところ、アントシアニン蓄積時に根部で含量が増加することが明らかとなった。植物の生理的な現象の中で、アントシアニン蓄積と硫化水素増加がリンクする現象が見出されたことから、この現象の解明についてさらに研究を行っていく予定である。特に、栄養欠乏時に誘導されるアントシアニン蓄積現象に関して、硫化水素や活性酸素、エチレンがどのように関わっているのかを明確にしていく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、硫化水素により誘導されるアントシアニン蓄積におけるシグナル因子の解明に当たり、水耕培養液組成の検討を行った。その結果、培養液に硫化水素を処理した時よりも、水に硫化水素を処理した時に、よりアントシアニンが蓄積することが確認できた。 そこで、水耕栽培時の栄養欠乏の基礎的なメカニズムを知るために、レタスおよびハツカダイコンを用いて、栄養欠乏が生育や成分に与える影響を調査した。その結果、レタスにおいては、栄養欠乏単独でアントシアニン蓄積が誘導されることが明らかとなった。さらに、経時的に根部の硫化水素を定量したところ、栄養欠乏時にのみ、処理後4日目以降に硫化水素の蓄積が増加していた。これは、アントシアニン蓄積現象と硫化水素は、栄養欠乏時のアントシアニン蓄積を増強するものと推察された。また、ハツカダイコンに栄養欠乏処理を行うと、処理期間の違いによりアントシアニンの蓄積や地上部と塊根の生育の違いが生じることが明らかとなった。 また、蛍光顕微鏡を用いて、活性酸素蛍光試薬のDCFHにより、予備的に植物の根部の活性酸素が定量できる条件を確立した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度の実験結果から、栄養欠乏ストレスがレタス根部の内在性硫化水素の蓄積を誘導し、この現象が栄養欠乏誘導性アントシアニン蓄積現象と相関があることが考えられた。そこで、この現象について本年度はさらに掘り下げて研究を行う。この結果を、硫化水素を処理することで誘導されるアントシアニン蓄積と関連付けることで、硫化水素が関与する植物の生理的現象の一端を解明できると考えられる。具体的には、栄養欠乏時の硫化水素の役割を明確にするために、硫化水素除去剤を用いてアントシアニン蓄積に与える影響を調査する。また、活性酸素やエチレンに関与する発生剤や阻害剤を処理することで、これらのシグナル因子の関与の有無を明らかにする。さらに、活性酸素の蛍光顕微鏡による観察や定量、酸化ストレスマーカーなどを調査することで、多角的に本現象を解明する予定である。
|
Causes of Carryover |
本年度はほぼ予算額と同額を消費したため、前年度未使用額が残額として残った。翌年繰り越し分は、次年度に行う顕微鏡観察実験の顕微鏡に必要な備品や蛍光試薬が必要以上に生じたため、それらの購入に充てる予定である。
|
Research Products
(1 results)