2020 Fiscal Year Research-status Report
Structural and functional analysis of the novel chromatin unit
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20K06599
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野澤 佳世 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (10808554)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | クライオ電子顕微鏡解析 / クロマチン / サブヌクレオソーム / 転写 / ゲノム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲノムDNAの情報はヌクレオソームを基本単位とするクロマチン構造の中に保存されており、通常ヌクレオソームはヒストンH2A、H2B、H3、H4、2分子ずつからなるヒストン8量体にDNAが左巻きに1.65回巻き付いた構造をとっている。一方、生体内にはサブヌクレオソームと呼ばれるヒストンの含有量やDNAの巻き付き方の異なる構造体が存在しており、クロマチンの高次構造とダイナミクスに多様性を与えている。本年度は、ヒストンH3、H4のみから構成されるサブヌクレオソームの立体構造解析に向けた、電子顕微鏡観察試料の調製方法の検討を行った。検討の結果、試料をパラホルムアルデヒドで架橋させて、ショ糖密度勾配遠心法によって精製するGraFix法を実施することによって、高分解能で解析可能なクライオ電子顕微鏡写真のデータセットを取得することに成功した。今後は、得られた電子密度に対して、モデルの構築を行っていく予定である。また、遺伝子発現がオンになったプロモーター付近のヌクレオソームではH2A、H2Bの存在比率が少ないことが報告されてることを踏まえて、その領域にサブヌクレオソームが存在する可能性を想定し、サブヌクレオソームをテンプレートとした試験管内転写実験も実施した。Komagataella pastoris酵母から精製した内因性のPol IIを用いて、ミスマッチbubble DNAをライゲーションさせたサブヌクレオソームから転写されるRNA量を検出した。実験の結果、サブヌクレオソームでは、通常のヌクレオソームと比較して、転写の効率が高いことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで、ヒストンH3、H4のみから構成されるサブヌクレオソームの構造については、分解能が不十分であるため、その側鎖レベルでの相互作用様式は分からなかった。しかし、昨年度行った条件検討を通じて、架橋剤であるパラホルムアルデヒドと試料を混合して、10~30%のショ糖密度勾配遠心法を実施すると安定な架橋複合体を精製できることが分かった。そこで申請者は、この試料について東京大学医学部の加速電圧300 kVのクライオ電子顕微鏡を用いてさらなるデータコレクションを行い、分解能を改善するための単粒子解析を行った。その結果、5517枚の電子顕微鏡写真から143万個の粒子の情報を集めることで、3.6 Åのサブヌクレオソームの電子顕微鏡像を得ることができた。また、構造解析の過程でサブヌクレオソームには、新たに2つの異なる溶液構造が存在することが分かり、それぞれの電子顕微鏡像を3.9 Å、4.3 Åで得ることができた。 また、遺伝子発現がオンになったプロモーター付近のヌクレオソームではH2A、H2Bの存在比率が少ないことが報告されてることを踏まえて、サブヌクレオソームをテンプレートとした試験管内転写実験も行った。転写テンプレートを調製するために、サブヌクレオソームにPol II結合の足場となるミスマッチbubble DNAをライゲーションさせた試料を非変性ポリアクリルアミドゲルを用いて精製した。サブヌクレオソームから経時的に転写された産物は、尿素変性ポリアクリルアミドゲルで展開し、プライマーに結合させた蛍光色素Cy5を検出することでRNA量を測定した。その結果、サブヌクレオソームのテンプレートでは通常型のヌクレオソームで見られるようなSHL-1の位置でのPol IIの停止が見られず、転写効率が高いことが示された。 これらの実績から、本研究課題が大きく進展してたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、昨年度進展があったヒストンH3、H4のみから構成されるサブヌクレオソームの構造・機能解析を進めると同時に、このサブヌクレオソームの生体内での存在と機能を明らかにする研究にも着手していきたいと考えている。まず、サブヌクレオソームのゲノム局在位置を特定したいと考えている。従来のMNase Seq法では、細胞核をエンドヌクレアーゼであるMNaseで処理することで、ヌクレオソーム画分を精製しているが、この方法では通常型のヌクレオソームフラクションの中にサブヌクレオソームが含まれていても見つけ出すことができない。申請者はこの問題を解決するために、サブヌクレオソームを識別できる抗体を用いることを検討している。通常のヌクレオソームでは、ヌクレオソーム側面のH2A、H2B部分にacidic patchと呼ばれる、負電荷を帯びた特徴的な分子表面が存在しているが、サブヌクレオソームにはこの領域が存在しない。申請者はこのacidic patchを認識する抗体を用いて、HeLa細胞の核抽出フラクションから通常のヌクレオソームを除去し、次世代シーケンサーで解析したいと考えている。またこれと並行して、サブヌクレオソームの結合因子の探索も行う。具体的な方法としては、ビオチン化したDNAを用いてサブヌクレオソームを再構成し、ストレプトアビジン担体と反応させることで、ヌクレオソームカラムを作成し、HeLa細胞の核抽出液から結合因子をブルダウン精製する予定である。カラムに結合した結合因子の候補は尿素バッファーにより溶出し、プロテアーゼ処理を行った後、LC-MS/MS質量分析法により網羅的に同定する。結合因子の探索は、通常のヌクレオソームに対しても行い、精製されてきたタンパク質プロファイルをサブヌクレオソームと比較することで、サブヌクレオソーム特異的なゲノム機能の解明もできると考えている。
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