2020 Fiscal Year Research-status Report
新生ペプチド鎖品質管理機構の破綻による細胞死誘導機構の解明
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20K06615
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
宇田川 剛 東北大学, 薬学研究科, 助教 (20644199)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 翻訳 / 品質管理 / タンパク質凝集体 / 細胞死 / 神経変性 |
Outline of Annual Research Achievements |
翻訳停滞に起因する品質管理機構であるRibosome-associated quality control(RQC)の分子機構が出芽酵母を用いて明らかにされつつあり、さらに、RQC機構の破綻がプロテオスタシスの異常を惹起することが報告されている。一方で哺乳類細胞におけるRQCの生理的重要性はまだ十分に明らかにされていない。哺乳類細胞においてはRQCにおいて異常新生タンパク質を分解に導くE3ユビキチンリガーゼLTN1の機能欠損が神経変性を惹起することが報告されているが、その毒性機構は不明であった。出芽酵母ではRQCにおいて新生鎖のC末端にアラニンとスレオニンからなるペプチド鎖が翻訳停滞後に解離した60Sリボソームサブユニット上でmRNA配列非依存のペプチジルトランスフェラーゼ活性により付加されることが報告されている。CATテイルは新生鎖の分解を促進するが、LTN1欠損等によりCAT付加産物が蓄積すると凝集体を形成することが報告されている。本研究ではまず、哺乳類細胞においてRQCの標的となる終止コドンが欠失したmRNAをモデルとしてCATテイルの同定を行った。停滞したリボソームとCATテイル付加因子NEMF、ペプチジルtRNAからなる複合体を精製し、そこに含まれるtRNAを同定することで哺乳類細胞におけるCATテイルを初めて同定することに成功し、さらにCATテイル付加産物が凝集体を形成すること、核小体に蓄積すること、神経細胞突起伸長を阻害することを明らかにした。さらにHeLa細胞においてはCaspase-3依存のアポトーシスを誘導することを見出し、これらの成果はCell Reports誌に掲載された。さらに、ノンストップ産物の過剰な蓄積は細胞内タンパク質合成レベルに影響を与える可能性を示唆するデータが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
RQCは現在までに出芽酵母を用いて分子機構の概要が明らかにされつつあるが、哺乳類細胞における機能解明は十分に進められていない。特に品質管理機構の破綻による疾患発症の分子機序の解明は重要な課題であり、RQC破綻による細胞毒性の主要な要因と考えられてきたCATテイルの哺乳類細胞における同定が待たれていた。本研究ではこの重要な課題に答えることができた。さらに、出芽酵母と哺乳類細胞におけるCATテイルの組成の違いや凝集性、凝集体の細胞内局在の違いなど今後の細胞、組織レベルでのRQC機能の生理的重要性のさらなる評価に欠かせない基礎となるデータを得ることができた。現在までに細胞死に直接つながるシグナル系の同定には至っていないが、ノンストップmRNA翻訳産物の蓄積が細胞内タンパク質合成に影響を与えることを示唆するデータも得ている。また、神経細胞においてもノンストップ産物の蓄積やLTN1欠損が細胞死を誘導することを示唆するデータも得ている。当初計画していたCATテイル付加産物の質量分析ではCATテイルのアミノ酸組成を同定することができたが、凝集性の高さのため変性条件以外での精製が困難であり、凝集体に巻き込まれる正常タンパク質の同定には至っていない。一方で、細胞死誘導タイムコースの評価により、人工CATテイル付加産物の蓄積は、ノンストップmRNA翻訳産物の蓄積に比べ、細胞死誘導が遅いことが明らかにされ、凝集体蓄積に先立つより強い細胞死誘導要因が存在することが示唆された。これらの結果から研究計画の一部変更は必要であるが、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで主にHeLa細胞を用いた細胞死誘導経路の解明を目指していたが、ノンストップ産物の蓄積と人工CATテイル産物の蓄積で細胞死誘導経路に違いが見られることが明らかになりRQC破綻による細胞毒性をCATテイルのみで評価するのは適切でない可能性が考えられた。また、前倒しして行った神経細胞を用いた解析において、神経細胞はノンストップ産物を強制発現させず、LTN1を単独で欠失し、内在のRQC標的を蓄積させるだけで細胞死が誘導されることが明らかになった。一方、HeLa細胞はLTN1欠失単独では細胞死を誘導せず、ノンストップ産物の過剰な蓄積が細胞死誘導に必要とされる。このように細胞ごとにRQC機能破綻に対する脆弱性が異なることが明らかにされつつあり、これまでのところ、神経細胞がRQCのより生理的な機能評価の解析に最も適していると考えられる。そのため、今後は主に培養神経細胞を用いてLTN1欠失とノンストップ産物、CATテイル付加産物の蓄積による細胞死誘導の再評価をまず進める。また、リボソーム プロファイリングについても神経細胞における細胞死誘導タイムコース等の条件を十分に解析したのちに実施を検討する。一方、HeLa細胞を用いた解析においもノンストップmRNA翻訳産物の蓄積によるタンパク質合成レベルの異常、Caspase-3依存のアポトーシスの誘導というこれまで見つかっていなかった影響も確認されている。これらの細胞内シグナル系、タンパク質恒常性における影響についても神経細胞やその他の細胞で同様の影響が得られるかを確認しその原因をさらに解析する。
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Research Products
(1 results)