2021 Fiscal Year Research-status Report
新生ペプチド鎖品質管理機構の破綻による細胞死誘導機構の解明
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20K06615
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
宇田川 剛 東北大学, 薬学研究科, 助教 (20644199)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 翻訳 / 品質管理 / タンパク質分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
mRNA翻訳の異常な停滞に起因するタンパク質分解機構であるRibosome-associated quality control(RQC)の破綻による細胞死の原因を明らかにするため、RQCにおいて標的タンパク質のC末端に付加されるCATテイルと呼ばれるユニークなペプチドの同定をこれまでに行った。昨年度までに哺乳類細胞におけるCATテイルの同定に成功し、その成果はCell Reports誌に掲載された。また、その際に用いたリボソーム-tRNA複合体中のtRNAの決定方法に関する論文が今年度にSTAR Protocols誌に掲載された。 一方、その後、Joazeiroらのグループにより、哺乳類細胞におけるCATテイルに関して、本研究とは異なる結果を示す報告がなされた。本研究では、哺乳類細胞のCATテイルはアラニンを主として、他にスレオニン、グリシン等、複数のアミノ酸を含むことを報告した。また、CATテイル化タンパク質の蓄積による細胞死の原因として、主にアラニン連続鎖の高い凝集性が考えられることを報告した。一方、Joazeiroらは哺乳類細胞のCATテイルはアラニンのみからなり、アラニンテイルがタンパク質分解のシグナルとして機能すること、さらにアラニンテイルを認識するE3リガーゼとしてPirh2、KLHDC10を報告した。 そこで、本研究で用いた人工CATテイル化タンパク質の発現と分解の再検討を行った。その結果、たしかにアラニンテイルを付加したタンパク質は低発現下では不安定化することが確かめられた。しかしながら、Pirh2やKLHDC10による基質認識にはJoazeiroらの報告とは異なる結果が見られており、また、RQC基質となる終止コドンを欠失したmRNAの翻訳産物の分解に対するこれらのE3リガーゼの効果は限定的であることが示唆された。現在、その詳細を解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではRQC機構の破綻による細胞死誘導の原因を明らかにすることを目的としており、すでにアラニンの連続配列からなるCATテイルがタンパク質凝集の原因となることを明らかにしている。一方で、上述のようにCATテイル化タンパク質の凝集性と分解に関して、海外のグループからの報告もあり、CATテイルによる異常タンパク質分解の再検討が必要となっている。これまでの解析により、CATテイルによる異常タンパク質の運命制御の分子機構がより詳細に明らかにされつつある。特に、CATテイル化タンパク質の発現レベルが、タンパク質凝集と分解の運命制御に重要であること、また、CATテイルを標的とするE3ユビキチンリガーゼの基質特異性が明らかにされつつある。おそらく、生理的条件においては、CATテイルはデグロンとして機能し、分解促進に寄与する。一方、RQC因子の欠損等によりRQC機構が破綻し、RQCの主要な標的となる終止コドンを欠失したmRNA(ノンストップmRNA)の翻訳産物が過剰に蓄積すると、CATテイルはノンストップmRNA翻訳産物の凝集体形成と細胞死を誘導する。また、上記二つのE3リガーゼはアラニンの連続配列以外にも本研究で同定されたアラニン以外のアミノ酸を含む一部の配列も認識することが明らかにされた。このように、これまでの結果からCATテイルの毒性と分解促進の二つの側面がより詳細に明らかにされつつある。これらの成果はCATテイルによる細胞死誘導機構の解明を目的とした当初の方針とは若干異なるが、CATテイルによるタンパク質運命制御の解明には非常に重要であり、本研究は全体としておおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
CATテイル化タンパク質の運命制御機構に関して、海外グループから本研究とは異なる報告があり、計画の修正が必要となっている。本研究ではCATテイルの同定とその細胞毒性に関する分子機構の解明をこれまで主に進めてきたが、海外グループはCATテイルの分解促進に関する分子機構を報告しており、相反する二つの機能に関してその詳細を解明することが必要となっている。これまでに、人工CATテイル化タンパク質や、RQCの基質となる終止コドンを欠失したmRNAの翻訳産物を用いた解析により、RQC標的の発現レベルによるCATテイル化異常タンパク質の分解と凝集の運命制御とCATテイルを認識するE3リガーゼの基質特異性の詳細が明らかにされつつあり、海外グループの報告と本研究の報告に矛盾はないことが示唆されているが、この検討をさらに進め、その成果を早急に論文化する必要がある。特に、E3リガーゼの基質特異性についてはまだごく一部の配列を検討したのみであるため、人工CATテイル化タンパク質を用いて網羅的に解析を進める必要がある。また、RQC標的の発現レベルに応じた分解機構については、タンパク質分解に加えて、mRNA分解も大きく寄与する可能性が示唆されており、mRNA分解因子の発現抑制による効果を確認する。また、CATテイルによる細胞死誘導についても、昨年度までに細胞のタンパク質合成阻害が関与することが示唆されており、このシグナル系を今後併せて明らかにする必要がある。さらに、異常タンパク質の発現レベルとタンパク質合成阻害の相関関係を明らかにする。これらの解析より、生理的条件下でのRQCの機能とRQC破綻時の細胞死誘導機構の解明を目指す。
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Research Products
(3 results)