2021 Fiscal Year Research-status Report
陸上植物において側生葉状器官の獲得を可能にした根幹原理の探索と解析
Project/Area Number |
20K06682
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中山 北斗 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (30610935)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | Amborella trichopoda / Arabidopsis thaliana / Evo-Devo / RNA-seq / Solanum lycopersicum / インフォマティクス / 進化発生学 / 葉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は、陸上植物において葉の獲得を可能にした分子機構を世界に先駆けて明らかにしようとするものである。応募者は、これまでその詳細が全くの謎であった葉の獲得を可能にした分子機構を、進化学的観点から複数の植物群を選択し、分子生物学的手法、インフォマティクスなどを駆使して、この課題の理解を進める計画である。 2021年度は、前年度に引き続き、複数のモデル植物を用いたRNA-seqとそのデータを用いた解析を行なった。具体的には、それぞれのRNA-seqデータを用いてのDEG解析や、カウントデータを用いた共発現遺伝子ネットワーク(GCN)の構築と、その比較を行なった。これまでに、現存する被子植物の系統樹の中で最基部に位置し、単葉を形成するアンボレラ(Amborella trichopoda)、やトマト(Solanum lycopersicum)のRNA-seqデータを用いて、GCN解析などを行ない、それらの比較を行なってきたが、2021年度は、単葉のモデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)でもRNA-seqを行ない、GCNの構築や、同じく単葉をもつアンボレラとの比較解析を行なった。 比較の結果、単葉をもつアンボレラとシロイヌナズナの2種の葉原基の遺伝子発現プロファイルは、系統的に離れた2種であっても、その基本的な部分に関しては類似していることが明らかになった。これにより、アンボレラとシロイヌナズナの2種が属する被子植物における単葉の発生プログラムは、被子植物の基部において、その基本的な部分はすでに確立していたことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、複数の植物からのRNA-saqデータを用いて、種間で共通するコアネットワークの抽出および、コアネットワーク内におけるハブ遺伝子の探索を主に行なう計画であった。前年度の研究によって、単葉を持つアンボレラと複葉をもつトマトとの比較から、葉原基における発現プロファイルの基本となる部分は比較的類似していることが明らかになっていた。そこでさらにアンボレラと同じく単葉をもつシロイヌナズナを用いたRNA-seqを行ない、DEGsの検出やGCNの構築など、前年度に他のアンボレラなど、他の植物で行なった解析を行ない、比較解析を行なった。シロイヌナズナを用いた解析では、これまでに報告されている葉の形態形成に関わる遺伝子群がDEGsとして検出され、一連の解析が問題なく行われたことが示唆された。また、同じく単葉をもつアンボレラとの比較解析では、GCNの比較などから、単葉をもつアンボレラとシロイヌナズナの2種の葉原基の遺伝子発現プロファイルは、系統的に離れた2種であっても、その基本的な部分に関しては類似していることが明らかになった。これにより、アンボレラとシロイヌナズナの2種が属する被子植物における単葉の発生プログラムは、被子植物の基部において、その基本的な部分はすでに確立していたことが示唆された。また、個別の遺伝子の比較も行なっており、GCN上のさまざまなパラメータから、ハブとなっている遺伝子の同定も行なった。 そのため進捗状況は、(2)おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに複数の植物種を用いて、そのRNA-seqデータを用いて、DEGsの検出や、葉の形態形成に関わるGCNの構築と比較解析を行なってきた。その中で、発現プロファイルの類似性や、ハブ遺伝子の探索などを行なってきた。特にアンボレラと同じく単葉を有するシロイヌナズナからRNA-seqデータを得ることができたため、より詳細に比較を行なう予定である。具体的には、発生ステージごとに発現プロファイルの類似度を比較する、起源が古く、より、保存されていると考えられる遺伝子がどのような挙動をしているか、などを詳しく調べる予定である。加えて、茎頂における詳細な遺伝子発現を明らかにするために、それぞれの種を用いたsingle-cell RNA- seq(scRNA-seq)を計画している。scRNA-seqは個々の細胞の遺伝子発現プロファイルにより、器官や組織ごとの遺伝子発現を明らかにすることができ、これによ り、現在のRNA-seqでは区別不可能であった茎頂と発生最初期の葉原基の遺伝子発現を明らかにすることが可能になると考えられる。しかしながらアンボレラは非常に貴重な植物であるため、十分にサンプルが得られるかがscRNA-seqを行なうための鍵となる。現在はアンボレラを用いた実験が可能か、各所と調整を行なっている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由としては、国際学会での研究発表、そして共同研究のための海外渡航がコロナのためにできなかったためである。またコロナの蔓延により、一部の研究計画に遅延が起きた点も理由として挙げられる。これらは、コロナの状況が改善した際に同様の趣旨で用いることとしている。
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