2021 Fiscal Year Research-status Report
Bio-demographic study using random matrix
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20K06821
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高田 壮則 北海道大学, 地球環境科学研究院, 名誉教授 (80206755)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横溝 裕行 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 主任研究員 (30550074)
大原 雅 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (90194274)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ランダム行列 / 数理モデル / 個体群動態 / データベース |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、三つのテーマについて研究が行われた。一つめの研究は、約600種の植物に関する個体群行列を保有するデータベース(COMPADRE)を用いた基本個体群統計量の種間横断的比較研究である。初年度に新たに提案した二つの個体群統計量、すなわち、生育段階間の個体数の推移の大きさである「個体の流れ」と、生育段階間を推移する個体の繁殖価である「繁殖価の流れ」を軸に、栄養繁殖を行う植物と、種子繁殖のみを行う植物の間での比較を行った。それらの植物間で、「個体の流れ」や「繁殖価の流れ」にどのような違いがあるのかを明らかにする統計解析を行い、栄養繁殖を行う植物と、種子繁殖のみ行う植物では個体の流れと繁殖価の流れが有意に異なることがわかった。 二つめの研究では、遺伝的構造を外挿できるように拡張した新たな個体群行列モデルを考案した。そのモデルを使って、ランダム行列によって生成される様々な生活史を持つ植物の遺伝的多様性の変化率を求め、遺伝的多様性の年変化率と8つの主要な生活史形質の間の関係を調べた。その結果、生活史形質の一つの滞留率が高い場合や、世代時間が長くゆっくり成長する生活史の場合に遺伝的多様性の変化率が高いことがわかった。その成果は、オンラインで開催された国際学会Ecology Across Borders 2021で発表され、国際誌に投稿された。 三つめの研究では、数種のエンレイソウ属植物、オオウバユリ、コウライテンナンショウ、バイケイソウ、スズラン、ムカゴイラクの生活史に関する調査ならびに個体群構造解明に関わる遺伝解析を行った。これらの成果は、種生物学会、日本生態学会での12件の学会発表で公表され、3本の成果論文として公表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に引き続き、新型コロナ感染症に対応する都道府県間の移動制限、研究機関への入構の制限の影響があったが、今年度はZoom会議を用いた研究打ち合わせ会議に加えて、対面による打ち合わせも数回行い、研究を進めることができた。初年度の研究では、単位時間あたりの生育段階間の個体数の推移の大きさである「個体の流れ」と生育段階間を推移する個体の繁殖価を「繁殖価の流れ」という新たな個体群統計量を提案し、在来種と外来種の個体の流れと繁殖価の流れを比較した研究を行った。今年度の研究でも引き続き、それら二つの個体群統計量を軸として、植物の個体群行列モデルのデータベースCOMPADREから栄養繁殖を行う植物と種子繁殖のみを行う植物を拾い出し、「個体の流れ」や「繁殖価の流れ」にどのような違いがあるのかを調べるために統計解析が行われた。これらの成果は、栄養繁殖の進化を理解するために、個体の流れと繁殖価の流れが重要な統計量となる可能性があることを示唆している。その成果については、日本生態学会の年会において発表された。 また、ランダム行列を使った解析では、初年度に引き続き、遺伝的構造を外挿できるように拡張した新たな個体群行列モデルを提案した。ランダム行列によって生成される様々な生活史を持つ植物の遺伝的多様性の変化率と滞留率や世代時間などの生活史形質の間の関係を調べた。その成果は、国際学会で公表されるとともに国際誌に投稿された。その他にも、地方に赴くフィールド調査の制限はあったものの、札幌市近郊において、エンレイソウ属植物数種の生活史に関する調査が行われ、個体群構造解明に関わる遺伝解析も順調に進み、多くの学会発表ならびに成果論文の公表を行った。繰越金額は未だ大きいが、全体としてみると、現時点ではおおむね順調な進捗であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度と同様に、Zoom会議システムを用いて、早期に研究打ち合わせ会議を開催し、その結果に基づいて研究を行う。個体群行列データベースCOMPADREに含まれる4つの生活史機能群を対象にした「個体の流れ」と「繁殖価の流れ」を求めた解析はすでに終了しているため、4つの生活史機能群ごとに「個体の流れ」と「繁殖価の流れ」の特徴を統計解析した結果について執筆中の論文を早期に国際学術雑誌に投稿することを計画している。また、栄養繁殖を行う植物と、種子繁殖のみを行う植物の間での「個体の流れ」と「繁殖価の流れ」の比較を行ない、どのような違いがあるのかを明らかにする統計解析が行われた成果については、その内容は論文執筆中であるため、完成を急ぎ投稿する予定である。同様に、在来種・外来種についても「個体の流れ」と「繁殖価の流れ」が異なることが明らかにすることができている。しかし、降水量や気温など生息環境の情報は生かされてこなかった。「個体の流れ」と「繁殖価の流れ」に影響を与えうる環境要因を統計解析に組み込んで、現在の多様な個体群行列がどのように実現されてきたか理解するための知見を得る予定である。 コロナ禍で制限を受けていたフィールド調査(交配実験、個体追跡調査)については、より充実させるとともに、対象植物群の遺伝構造のより詳細な解析を進める予定である。このプロジェクトのこれら一連の成果について、最終年度の期間を利用して、研究打ち合わせの回数を増やすなど工夫をして、連続的に投稿論文原稿の執筆・投稿・出版を行う予定である。
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Causes of Carryover |
各種マスコミで報道されているように、新型コロナ感染症流行にともなう緊急事態宣言による移動の制限、研究機関への入構の制限が行われたため、プロジェクト会議を開催するなどの対面による打ち合わせを行うことができなかった。また、予定されていた国内学会や国際学会がすべてオンライン開催に変更された。そのため、国内・国外旅費として使用する予定であった経費、野外調査用に用意されていた旅費などが使用できず、次年度に使用する予定の残額が発生した。新年度は、移動が許される範囲で研究打ち合わせを実施するとともに、通信環境の整備費、オンライン学会参加費に科学研究費を使用する計画を考えている。
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