2023 Fiscal Year Research-status Report
小胞体―細胞膜オルガネラ接合部のCa2+が神経可塑性、発生分化に及ぼす役割
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20K06864
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
御子柴 克彦 東邦大学, 理学部, 訪問教授 (30051840)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 小胞体の品質管理 / コレステロール代謝不全 / Derlin-SREBP-2経路 / 小胞体ストレス応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
病態脳では脳萎縮が観察され、共通して認められる変化が細胞小器官の一つ小胞体の品質悪化である。小胞体は、細胞が曝されたストレスを感知し、それに対処することで細胞のストレス状態を緩和する能力(小胞体ストレス応答)を持つ。これまでに、小胞体の膜上のタンパク質Derlinは、小胞体の品質管理に必須な分子であることが報告されている。また、小胞体は、コレステロール合成に関わる膜型転写因子SREBP-2の活性化の最初のステップを担う場所であり、コレステロール合成にとって重要な細胞小器官としても知られている。 本研究では、脳内でのDerlin遺伝子欠損マウスを用いた解析により、小脳でSREBP-2の活性化が阻害されていること、それにより小脳内のコレステロールの総量が減少していることを突き止めた。さらに、Derlinを欠損させた培養神経細胞で見られる樹状突起の短縮は、人為的なSREBP-2の活性化により抑制できることを発見した。 これら結果は、小胞体膜上でDerlinが、SREBP-2の活性化を制御してコレステロール合成を誘導し、神経突起伸長を促すことで、脳の正常な発達と機能維持に重要な役割を果たしていることを示している。 さらに本発見のユニークな点として、Derlinの機能不全による小胞体ストレスそのものは、脳萎縮の直接の原因ではなかったという点も挙げられる。本研究成果は、DerlinによるSREPB2活性制御を介したコレステロール合成が、脳神経細胞の重要な役割を担い、その破綻が脳萎縮に繋がるという、新たな分子メカニズムを見出した重要な知見といえる。 本成果および今後の研究の発展により、Derlin-SREBP-2経路が、コレステロール代謝不全を伴う神経疾患や発達障害に対して、その病態を改善するための新たな治療標的となることが期待される(宮崎大学医学部と東京大学大学院薬学系研究科との共同研究)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最近IP3受容体が、正常のみならず、『がん、神経変性症、老化、認知症、運動失調、精神神経疾患』などの病気を含む生命現象の様々な局面で重要な働きをしていることが明らかとなってきている。特に小胞体ストレス応答に際してこれまで、PERK(PKR-like ER kinase)、IRE1(inositol requiring enzyme-1)、ATF6(activating transcription factor)を介して遺伝子発現を介するアポトーシスへの経路が確立されていた。しかし研究代表者は外界からのストレスを感知したERp44やGRP78(BiP)などのシャペロンがタンパク質の品質管理上問題となるミスフォールドタンパク質の情報をIP3受容体へ渡しIP3受容体は各々センサーからの情報を統合して最終的にIP3受容体のチャネルを介してカルシウム放出を行い細胞の生死を決定する。 すなわち、IP3受容体を介する小胞体ストレス応答の新規の経路を見出した(Higo et al. Cell 2005, Higo et al. Neuron 2010)。その延長上の成果として小胞体の膜タンパク質Derlinが品質管理に重要であることを解明した。さらに、Derlinは運動機能に重要な小脳や線状体の発達にとくに重要で、その機能不全は、パーキンソン病などで認められる運動機能障害を引き起こすことも突き止めた。
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Strategy for Future Research Activity |
IP3受容体カルシウムシグナルの働きを、正常、病気両面から明らかにするため、今後は正常の解析と並行して外界からのストレスが働いた場合の生体の応答に関するメカニズムの解明を目指してゆく。ストレス応答にはERストレス、Apoptoticストレス応答などが起きて神経変性症や精神神経疾患を含む障害が起きるが、生体にはそれらの疾患から逃れる為の防御機構が働く。 その防御機構にIP3受容体を中心とする関連分子がどの様に働くかを明らかにするために、細胞レベル、と個体レベルでの研究を進める。 IP3受容体と結合する分子として、すでにBcl-2 Apoptotic family タンパク質や、caspase-3を初めとして研究代表者らが発見して命名したIP3受容体に結合するIRBIT分子の機能解析を進めている。その為にERストレス応答とApoptoticストレス応答のメカニズム解明の為の抗体の購入を進めた。特に研究を効率良く進める為の共同研究を展開する為に、共同研究者と緊密な連絡をとっている段階である。
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Causes of Carryover |
2023年はCOVID-19変異型によるパンデミックの脅威は無くなったが、まだ依然して注意を要するため、研究代表者自身の研究活動及び中国-日本間の移動が必ずしも自由でない時期が続いた。そのため、東邦大学においては、通常の実験に必要な試薬の購入等について、次年度使用額が生じた。2023年度の未使用額については、物品の購入(試薬・消耗品等)、研究の打ち合わせのための旅費、論文発表に関する費用(論文投稿料・英文校正料・印刷費等)、共同研究者に向けた研究試料の発送費用に使用する予定である。
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