2020 Fiscal Year Research-status Report
An implication of transporter-mediated regulation of brain PG concentration for mental diseases
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20K07018
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Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
中西 猛夫 高崎健康福祉大学, 薬学部, 教授 (30541742)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | プロスタグランジン / 中枢神経系 / 膜輸送体 / トランスポーター / うつ病 / 炎症 / SLCO2A1 |
Outline of Annual Research Achievements |
睡眠や神経炎症に関与するPGD2は脳内で最も豊富に存在するプロスタグランジン(PG)類であり、海馬において生理的濃度で神経保護作用を示すが、1 μM以上になると神経変性作用を示す。PGE2と同様にSLCO2A1の高親和性の基質であるため、SLCO2A1による脳内PGD2の分布調節機構を明確にすることを主眼において、研究を展開した。LPS (100 μg/kg)を全身性Slco2a1欠損マウス(以下、Slco2a1(-/-))の腹腔内に投与し炎症を惹起させた後、微小透析法によりLC-MS/MSを用い、海馬間質液(ISF)中のPGD2濃度の時間推移を測定し、野生型(+/+)と比較した。LPS投与直前の(+/+)群の海馬ISF中PGD2濃度は11.5 ng/mLであった。LPS投与後PGD2濃度は徐々に低下し、5時間後には3.3 ng/mLまで減少した。一方、投与直前の(-/-)群のPGD2濃度は2.1 ng/mLと(+/+)群に比べ有意に低く、投与後も顕著な濃度変化は観察されなかった。さらに、マウス脳Slco2a1タンパク質の発現を免疫組織化学染色により検討した結果、海馬領域の神経細胞、血管内皮細胞および血管近傍の脳実質細胞で有意なSlco2a1抗原抗体反応が観察された。これらの結果から、海馬領域においてSLCO2A1はISF中へのPGD2の供給に寄与し、SLCO2A1の機能や発現の低下により、炎症時に増加するPGD2の作用を抑制することが示唆された。具体的には、脳実質細胞からのPGD2放出あるいは血中PGD2の海馬への移行に関与すると考えらえた。本検討により、脳内の領域は異なるがPGE2と同様に、PGD2についても海馬領域でSLCO2A1による分泌調節を受けることが確認されたことから、血管内皮やグリア細胞などの実質細胞近傍におけるPG濃度調節因子としてSLCO2A1の重要性が強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は研究代表者が現所属へ着任して2年目の年であるが、現在も研究室の立ち上げに予想以上の時間を要している。この原因として、コロナ禍によるオンライン授業・業務の増加に伴う資料の作成や学生への対応に想定外の時間を取られ、学生の研究が一部制限されたことがあげられる。したがって、研究の進捗は当初より遅れ気味である。具体的には、実験に使用するSLCO2A1(-/-)マウスの繁殖および飼育スケジュールが遅延し、SLCO2A1以外のPG膜輸送体の発現と機能に関する検討を完了することが出来なかった。しかし、研究協力者の協力により、SLCO2A1による中枢神経系PGD2濃度調節機構の解析については作業仮説を支持する結果が得られた。本成果により、これまでPGE2で認められたSLCO2A1の役割がより明確に示された。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討により、PGE2およびPGD2の動態調節に少なくともSLCO2A1が関与することが明確になったため、in vitro血管内皮細胞およびグリア細胞モデルを用い、SLCO2A1の発現およびPG輸送能を分子レベルで明らかにする検討を推進する。また、PG類を認識する膜輸送体は複数報告されているため、マウス脳切片を用いたin situ ハイブリダイゼーション法を用い、脳の各組織におけるPG膜輸送体の発現を明確にし、発現が確認された膜輸送体とSLCO2A1によるPG輸送との関係性を明らかにする。さらに、PGは情動や神経炎症に関与するため、PG動態調節に関わる輸送体が精神活動に及ぼす影響を検討する。既報に従い、リポ多糖単回投与(1~10 mg/kg i.p.)やコルチコステロン連続投与(20 mg/kg s.c.)により作製されたうつ病マウスモデルを使い、PG膜輸送体の発現や機能が情動行動に及ぼす影響をオープンフィールド試験や強制水泳試験などにより、行動薬理学的な観点から評価する。さらに、ミクログリアから放出されるPG類には神経炎症との関連が指摘され、脳を保護する脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現はPGにより調節されるため、BDNFレポータートランスジェニックマウスを用い、膜輸送体の機能の変動とBDNFの発現・分布変化と関連を明確にすることで、膜輸送体が神経炎症に及ぼす影響について検討する。
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Causes of Carryover |
令和元年に研究代表者が現所属機関に着任して以来、研究室の立ち上げに努めているが、本年度はコロナ禍の影響をうけ、予想以上の時間を要した。令和2年後半になり、ようやく実験を実施する体制が整備されてきた。したがって、本研究の進捗には当初の計画より遅れが生じ、一部予算が令和3年度に繰り越された。令和3年度は、研究室の立ち上げがほぼ完了し大学院生も加入したことから、当初予定されていた計画については変更・縮小せず、実施する予定である。
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