2020 Fiscal Year Research-status Report
がん代謝阻害時に誘導される相同組換え修復不全の治療標的化に向けた機序解析
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20K07689
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Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
岡本 有加 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター ゲノム研究部, 研究員 (50625217)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | がん代謝 / 合成致死 / ストレス応答 / シスプラチン / DNA相同組換え修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん細胞は、解糖系の亢進やグルタミン代謝経路の亢進と言った、正常細胞とは異なる代謝に依存して生存・増殖しており、こういった異常ながん代謝を標的とした治療法の開発が進められている。しかし、がん細胞の代謝経路は可塑性が高く、特定の経路の阻害時に、代替経路の活性化等の適応応答によって生存が可能となることも知られている。従って、がん細胞の代謝を多角的に理解・制御することは特異性および確度の高い治療法開発にとって不可欠である。本研究では、グルタミン代謝阻害と抗がん剤シスプラチンによる細胞選択的な合成致死という独自の知見について、分子機序の解明及び治療応用へのproof of concept取得を目指す。 初年度であった2020年度は、研究計画に基づき、グルタミナーゼ(GLS)阻害剤とシスプラチンとの合成致死効果の性状解析を中心に進めた。その結果、GLSの機能阻害によるシスプラチンの感受性増強を確認することができた。また、GLS阻害による細胞内の遺伝子発現変動を網羅的に解析した結果、細胞内のストレス応答シグナルである、Integrated Stress Responseが活性化していることが明らかとなった。さらに、細胞内の中心代謝物の変動を網羅的に解析した結果、GLS阻害に伴うグルタミン酸の減少及びグルタミンの蓄積が確認できた。さらに、アルファケトグルタル酸やコハク酸など、TCAサイクルの中間体の顕著な減少を認めた。以上の結果から、GLS阻害時の細胞の応答について詳細なデータを得ることができ、以降の研究に重要な足掛かりを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グルタミナーゼ(GLS)阻害とシスプラチンへの高感受性化との関係を確認するため、複数のGLS阻害剤を用いて、シスプラチンとの合成致死効果、及び、GLS活性阻害について検討した。その結果、GLSの阻害活性を強く示した2化合物が、肺がん細胞株H460及びA549においてシスプラチンの感受性を3-5倍程度増強させることを確認した。また、siRNAによるGLSのノックダウンによっても、シスプラチンの感受性が増強したことから、GLSの機能阻害によるシスプラチンへの感受性化を確認することができた。また、コロナ禍で、細胞を用いた実験が少し滞ったことから、計画を変更し、遺伝子発現変動及び代謝変動に関する網羅的なデータ解析を先行して実施した。GLS阻害によってシスプラチンに感受性化するH460及びA549細胞株を用いた遺伝子発現変動解析から、細胞内においてストレス応答シグナル経路であるIntegrated Stress Response(ISR)が活性化していることが示唆された。実際に、グルタミナーゼ阻害剤を処理した際には、ストレスセンサーであり、ISRのシグナルメディエーターであるGCN2のリン酸化と、下流の転写因子ATF4の発現誘導が起こっていることを確認した。 さらに、メタボローム解析により、GLS阻害時には、TCAの中間体であるアルファケトグルタル酸・フマル酸・コハク酸の量が顕著に減少していることが明らかとなった。フマル酸やコハク酸は、細胞内のDNAメチル化酵素の基質となることが知られている。ここから、今回見出した代謝変動は、これまでに見出している、GLS阻害剤による、シスプラチン処理後のDNA2本鎖切断の蓄積といった、DNA相同組換え修復不全の誘導の機序解析の足掛かりになると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、2020年度に見出した、ISR、特にGCN2経路の活性化と、代謝物の減少に着目し、引き続き解析を進めていく予定である。具体的には、GLS阻害剤とシスプラチンとの合成致死におけるGCN2経路活性化の役割を、化合物等によるGCN2経路の阻害時の効果を解析することにより明らかにする。また、アルファケトグルタル酸やコハク酸、フマル酸の補充による、GLS阻害剤とシスプラチンとの合成致死効果への影響を検討するとともに、細胞内のメチル化酵素の阻害が、この合成致死に関与しているかの検討を進める。 更に、GLS阻害剤の感受性既定因子の探索を進める予定である。予備的検討から、肺がん細胞株の中でも、A549及びH460においては強い合成致死効果が得られるものの、H226細胞株では合成致死効果が全く出ないことが明らかとなっている。そこで、がん研究会内で設立された、10のがん種、39の細胞株で構成されるがん細胞パネルJFCR39を用いて、GLS阻害剤とシスプラチンとの合成致死効果について検討する。合成致死効果が強く顕れる細胞と顕れない細胞を明らかにし、両者の遺伝子発現、変異情報等を比較解析することで感受性規定因子の候補を得たいと考えている。
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Research Products
(1 results)