2020 Fiscal Year Research-status Report
A molecular epidemiological study of antimicrobial resistance in bacteria isolated in a prefectural area by using a One Health approach
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20K07815
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Research Institution | Kumamoto Health Science University |
Principal Investigator |
川口 辰哉 熊本保健科学大学, 保健科学部, 教授 (50244116)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野坂 生郷 熊本大学, 病院, 教授 (90398199)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 薬剤耐性菌 / メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 / カルバペネム耐性腸内細菌科細菌 / ワンヘルス |
Outline of Annual Research Achievements |
微生物の薬剤耐性(antimicrobial resistance: AMR)化は公衆衛生上の脅威であり、医療のみならず畜産や農林水産の分野においてワンヘルスアプローチによるAMR対策が求められている。我々は、地域の医療機関が連携して独自の微生物サーベイランスシステムを構築し、地域の耐性菌動向を把握してきたが、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の臨床分離率が期待通り改善せず、一方で、これまで稀なカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)がしばしば検出されるなど、地域における新たな感染制御上の問題に直面している。そこで本研究は、これら問題の原因を解明するために、ヒトや家畜から分離されたMRSAやCREを対象に耐性遺伝子に基づくジェノタイプ解析を行い、その分子疫学的特徴を明らかにすることを目的に計画した。 2020年度は、① 地域の微生物サーベイランスシステム改修作業の着手、② 再現性良好なMRSAやCREの耐性遺伝子分析法の確立、および単一施設(熊本大学病院)での小規模な分子疫学解析の実施、③熊本県感染管理ネットワーク所属医療機関からの臨床分離株(MRSAやCRE)の収集・保存、を目標とした。それぞれの実績概要は下記の通りである。 ① 本システムを協働で開発したソフトウエアベンダーに依頼し、システムの容量負荷を軽減できるようソフトウエアの部分改修を完了した。 ② 予定通りPCRベースの耐性遺伝子の分析法を確立し、MRSAではSCCmec型の決定、CREではカルバペネマーゼ、AmpC-β-ラクタマーゼ、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼの同定が可能となった。MRSAでは、単一施設(熊本大学病院)における3年分の菌株に対して、SSCmec遺伝子型を決定することができた。 ③ 熊本県感染管理ネットワーク参加30施設の施設長宛に協力依頼書を発送し、菌株収集を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の2020年度は、本研究の基盤となる薬剤耐性遺伝子の検出・同定方法の確立が最大の目標であり、これを達成することができたことによる。その根拠となる具体的な進捗状況は下記の通りである。 (1) MRSAに関しては、耐性遺伝子mecA を含むStaphylococcal chromosomal cassette mec (SCCmec)の遺伝子型決定方法を確立した。まず本邦で誕生した比較的新しい遺伝子分析方法であるPOT法を用いてSCCmec型の推定を行い、これを従来のmultiplex PCR 法によるSCCmec型確定方法により検証した。その結果、POT法によるSCCmec型の決定方法を確立することができた。またMRSA特有の毒素PVLに対してPCRによる遺伝子検出法を確立した。すでに単施設のデータをまとめており、次年度に学会や論文等で発表できるよう準備が進んでいる。 (2)CREに関しては、解析対象の耐性遺伝子として、カルバペネマーゼ (KPC、IMP-1、IMP-2、VIM-1、VIM-2、NDM、OXA-23、OXA-48、GES)、AmpC-β-ラクタマーゼ (ACC、 FOX、MOX、DHA、CIT、EBC)、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ (ESBL) (CTX-M1 group、CTX-M2 group、CTX-M9 group) の各遺伝子を想定しており、過去の文献を参考にプライマー設計を行い、multiplex-PCRを用いた検出方法をほぼ確立した。また、耐性遺伝子の機能解析として、Modified Carbapenemase Inactivation Method (mCIM)を用いたカルバペネマーゼ産生能の確認を行うことが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、耐性遺伝子解析を地域の医療機関から収集した検体に広げていく。また家畜から耐性菌分離を試み、同様に耐性遺伝子解析を開始する。 (1) MRSAに関しては、2021年度内に収集予定の約1000検体を対象に、前年度に確立した解析方法を用いてSCCmec型決定やPVL毒素遺伝子の有無などを検討する。これまでの単一施設由来のMRSAの解析では、院内感染型MRSAから市中感染型MRSAへと急速なクローンシフトが起こりつつあることが明らかとなっており、多施設由来検体に対して同様の検証を行うことで地域全体の耐性菌動向を明らかにする。 (2) CREに関しては、引き続き検体収集を続けながら、主要な耐性遺伝子(前述のカルバペネマーゼ、AmpC-β-ラクタマーゼ、ESBL)に対してmultiplex-PCRを実施し、各菌株の耐性化の原因を明らかにする。同時に、耐性遺伝子の機能解析として、Modified Carbapenemase Inactivation Method (mCIM)を用いたカルバペネマーゼ産生能の確認を行う。これらデータを集計し、地域内での分子疫学的特徴を明らかにする。 (3) 地域での耐性菌拡大の理由の1つとして家畜由来が想定されるため、食用家畜の耐性菌保有状況を明らかにする予定である。県食肉衛生検査所の協力のもとに、まず家禽から耐性菌分離を試み、上述の耐性遺伝子解析を分析し、臨床分離株との比較検討を行う。
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Causes of Carryover |
微生物サーベイランスシステムのソフト改修費用に60万円を計上していたが、実際に発生した支払いが599,500円であったため、500円の残金が発生した。この残金は、次年度の消耗品代金として使用予定である。
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