2020 Fiscal Year Research-status Report
玄米機能成分による脳内アセチルコリンシグナル制御と依存症・認知症改善の分子機構
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20K08912
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
益崎 裕章 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00291899)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 士毅 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40342919)
山崎 聡 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (50622792) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 玄米機能成分 / γ-オリザノール / アルコール依存 / 認知機能障害 / 動物性脂肪依存 / 脳機能 / 食行動変容 / 神経内分泌学 |
Outline of Annual Research Achievements |
玄米由来機能成分であるγ-オリザノールがアルコールに対する依存的行動の予防・改善および認知機能低下の改善に有効であるという仮説をマウス病態モデルの解析によって検証し、臨床医学に還元できる科学的エビデンスを構築することを目標として研究を進めている。本年度は再現性の高いアルコール依存症モデルの作成法の確立に成功し、アルコール摂取量と行動パターン特性を定量的に評価した。アルコール依存症モデルマウスにγ-オリザノールを給餌し、アルコール嗜好行動の改善効果を評価し、さらに、γ-オリザノール前投与がアルコール依存行動を予防出来る可能性について検証した結果、高い再現性を持ってγ-オリザノールがマウスにおけるアルコール嗜好性を顕著に軽減し、アルコール依存を防御することが明らかとなった。 さらに、マウスにおいて脳内報酬系神経回路を構成する腹側被蓋野(VTA)、側坐核(NAc)、線条体(Str)、前頭前皮質(mPFC)などの神経核をパンチアウト法で採取し、ドパミン受容体シグナルに関わる種々の分子群のmRNA発現、タンパク発現を網羅的に解析した結果、アルコール依存状態のマウスVTA、NAc において明らかに低下していたドパミン合成に関わる遺伝子群の発現レベルがγ-オリザノールの経口投与によって上昇し、NAcにおけるドパミン含有量も増加することが判明した。これらの結果から、アルコール依存状態で慢性的に低下していた脳内報酬系のドパミン受容体シグナリングがγ-オリザノールの経口摂取によって改善し、アルコール嗜好性の緩和に寄与する可能性が示唆された。 また、50週齢前後の雄性マウスに対して動物性脂肪高含有餌とγ-オリザノールを4か月間、同時給餌した結果、動物性脂肪餌のみのマウスに比べてY字迷路試験における空間作業記憶率と自発活動量が有意に改善・増加し、通常餌マウスと同程度にまで回復することが確認出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
玄米由来機能成分であるγ-オリザノールがアルコールに対する依存的行動の予防・改善および認知機能低下の改善に有効であるという仮説をマウス病態モデルの解析によって検証し、臨床医学に還元できる科学的エビデンスを構築することを目標として研究を進めている。 初年度は本研究計画の基盤を成す最重要部分である 『γ-オリザノールがアルコールに対する依存的行動の予防・改善および認知機能低下の改善に有効であるという仮説』 を主にマウス行動実験から再現性を持って明らかにすることが出来た。次年度以降は研究計画調書に基づいて脳内分子メカニズムの詳細な解明を進めて行く予定であり、おおむね順調に進展していると判断出来る。
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Strategy for Future Research Activity |
γ-オリザノールによるアルコール依存行動の予防・改善効果に関わる脳内分子メカニズムに関してγ-オリザノール投与アルコール依存症モデルの側坐核(NAc)や前頭前皮質(mPFC)におけるドパミンニューロン入力の影響をGABA生合成・分泌に関わる機能分子群のmRNAとタンパク発現量で評価するとともに腹側被蓋野(VTA)におけるアセチルコリン分解酵素(AChE)のmRNA・タンパク発現に及ぼす影響を解析する。これらの実験を通してAChEがγ-オリザノールのVTAにおけるターゲット分子である可能性を検証する。さらに、AChEが高発現し、報酬系ニューロンの形質を保持しているヒト神経芽細胞腫由来細胞株として知られるSH-SY5Yを用いてγ-オリザノールの添加による網羅的な遺伝子・タンパク発現解析を行う。AChE 遺伝子プロモーター領域におけるクロマチン免疫沈降アッセイを実施し、γ-オリザノール添加により、例えば、Egr-1の結合が増加し、Sp1の結合が阻害され、AChEの発現が抑制されるというような新規の転写調節機序の可能性に関して検証する。γ-オリザノールによる認知機能低下の改善に関わる脳内分子メカニズムに関して動物性脂肪高含有餌下の高齢マウスに対するγ-オリザノール投与が短期記憶形成の中枢である海馬におけるマイクログリア炎症や酸化ストレスの軽減、AChEの発現や活性の抑制をもたらす可能性を検証する。活性化マイクログリアマーカーIba1、成熟ニューロンマーカーNeuN、神経幹細胞マーカーSox2、アストログリア・神経幹細胞マーカーGFAP発現やAChEの酵素活性、mRNA・タンパク発現を指標として解析する。特に神経幹細胞の存在比率が高い歯状回や記憶形成領域の中枢を担うCA1におけるAChEの発現を免疫組織染色で解析し、認知機能障害の回復に寄与する治療的・機能的意義を検討する。
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Causes of Carryover |
初年度の研究においては高齢マウスを用いる実験にて当初の予想を上回る数のマウスの死亡が生じたため、追加のマウスの調達・準備を余儀なくされた。その結果として脳科学的解析に供するマウス個体数が減少したため、2年目に追加実験を鋭意、行う計画である。また、γ-オリザノールによるアルコール依存行動の予防・改善効果に関わる脳内分子メカニズムに関する実験においてもマウスの報酬系神経核という超微細な組織を扱うという実験の性質上、サンプルからの核酸、タンパク回収率が予想よりも低いケースが一定の割合で含まれたため、これらに関しても2年目に追加実験を鋭意、行う計画である。以上の理由から初年度に計画した実験の中で2年度にも持ち越すものが いくつか含まれるため、予算の次年度使用を要請した次第である。
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Research Products
(25 results)