2021 Fiscal Year Research-status Report
化学療法剤超感受性を付与する高度なゲノム恒常性維持機構の解明
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20K09915
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Research Institution | Fukuoka Dental College |
Principal Investigator |
日高 真純 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (80238310)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤兼 亮輔 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 講師 (20581713)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | DNA損傷応答 / 細胞周期チェックポイント / アポトーシス / ATR/CHK1 / 化学療法剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの抗がん剤はDNAを損傷し、増殖の盛んな細胞に対して複製ストレスを与えるが、応答するしくみは細胞の種類によって異なっている。がん細胞やそれが由来する体細胞はDNA損傷に応答して細胞周期を停止し傷の修復を試みるが、修復がうまくいかない場合は突然変異や染色体異常を伴う。一方、多能性幹細胞はDNA損傷に対して高度に感受性で、僅かなストレスを受けた場合でも修復することはせずに優先的に細胞死を選択することで高度なゲノム恒常性を維持している。そこで本研究は、細胞がストレスに応答して生死を決定する分子メカニズムを明らかにすることで、多能性幹細胞が有する高度なゲノム恒常性維持機構の解明と低濃度で作用する新たな抗がん療法の開発に向けた分子基盤の確立を目的に計画されたものである。 申請者はこれまでにDNA損傷が引き起こす細胞死誘導において、クロマチン動態と損傷応答シグナリングのトランスアクションが重要であるとの知見を得てきた。そこで令和3年度は、ミスマッチ修復(MMR)因子との関連が報告されているBLMヘリカーゼとWRNヘリカーゼのチェックポイント活性化ならびに化学療法剤感受性に及ぼす影響についての解析を行った。その結果、BLM ならびにWRN のノックアウトによりATR/CHK1シグナリング活性化の遅延と抗がん剤に対する感受性が亢進することを明らかにした。これによって、多能性幹細胞に見られる複製ストレス応答時のチックポイント活性化の回避がその優先的な細胞死選択の要因であることが強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者はヒトiPS細胞において、DNA損傷後もチェックポイントキナーゼATR/CHK1はリン酸化されず、高感度に細胞死が誘導されることを検証してきた。このことは、Guptaらの最近の報告(Gupta et al., PNAS, 2018)とよく一致する。 そこで令和3年度にはヒト子宮頸癌由来細胞株HeLaを実験材料に用いて、ミスマッチ修復(MMR)因子の1つであるMLH1との物理的あるいは機能的な関連が知られているBLMヘリカーゼとWRNヘリカーゼの抗がん剤(アルキル化剤とシスプラチン)感受性に及ぼす影響についての解析を行った。その結果、BLMあるいはWRN遺伝子のノックダウン細胞ではどちらの薬剤に対しての感受性が亢進し、ノックアウト細胞ではその感受性の亢進がさらに顕著となることが明らかとなった。その条件下でのATR/CHK1経路阻害の効果をCHK1のリン酸化を指標に検証したところ、BLMノックアウト細胞においては、ATR/CHK1シグナリングの活性化がコントロールに比べて著しく遅延していることが明らかとなった。また、細胞の免疫蛍光染色解析により、BLMがDNA損傷に応答してクロマチン上でMLH1と共局在していることが認められた。以上の結果は、DNA損傷応答の活性化制御が、細胞のストレス応答時の生死決定メカニズムと密接に関連していることを強く示している。これらの成果は、福岡歯科大学学会総会において報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
多能性幹細胞であるヒトiPS細胞とこれまで細胞死誘導研究に利用してきたヒトがん由来培養細胞との比較を行いながら、以下の実験に取り組む。 (1)がん培養細胞との比較によるヒトiPS細胞におけるチェックポイント活性化回避の検証 ATR/CHK1経路の活性化回避が細胞のストレス応答時の生死決定メカニズムと密接に関連していることを見出したので、活性化回避に伴いDNA修復が抑制されていることを検証するために、核内でのDNA損傷の蓄積をDNAの構造変化(一本鎖DNAの露出や二本鎖DNA切断、マイクロサテライト不安定性、染色体不安定性等)を指標に解析する。さらに、その時のクロマチン動態についてもATAC(Assay for Transposase-Accessible Chromatin)法を用いて解析を行う。 (2)ストレス超感受性に関連するタンパク質の網羅的な同定 遺伝子ノックダウン細胞ライブラリーあるいは遺伝子ノックアウト細胞ライブラリーを構築し、その中から抗がん剤処理後にCHK1のリン酸化を誘導し薬剤耐性を獲得した細胞のスクリーニングを継続して行う。その変異遺伝子を次世代シークエンサーによるバーコード解析にてチェックポイント回避関連遺伝子として同定する。それと同時に、これまでにヒトがん由来培養細胞でのDNA損傷応答への関与を明らかにしたTopBP1, BLM, WRNのストレス超感受性への関与を検討する。
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Causes of Carryover |
当該年度がコロナ渦のため学会がすべてハイブリッド形式での実施となったため旅費が発生しなかった。また、同様な理由で人件費・謝金も発生しなかった。これらの理由で次年度使用額が生じたので、その分を物品費と状況が許せば旅費に使用する予定である。得られた成果は積極的に社会に発信していきたい。
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