2021 Fiscal Year Research-status Report
Constructing a medical humanity curriculum for professional identity formation of medical students
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20K10324
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
横山 彰三 宮崎大学, 医学部, 教授 (60347052)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
南部 みゆき 宮崎大学, 医学部, 准教授 (90550418)
本部 エミ 宮崎大学, 多言語多文化教育研究センター, 講師 (10755515)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 医療人文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度については計画していた海外・国内調査がコロナによる移動制限等により予定通り進まなかったが、今年度から「医療人文学入門」を開講した。その結果について報告する。 <講義の内容>将来医療者を志す医師はエビデンス(科学的根拠)に基づいた医療 (Evidence-based Medicine) を専門科目では中心に学習することになる。その一方で、最近の医療ではNarrative-based Medicine(物語に基づいた医療:NBM)が注目されている。人はそれぞれのもつ物語、信念や価値観を通して世界を見る。どんなにいい薬や治療法があっても患者の抱える心の痛み、家族・社会背景に紐付く様々な問題を知らなければ、効果的で人間的な医療は提供できない。この講義では医療を様々な人文学的観点(宗教学、文学、人類学、心理学、異文化コミュニケーション論等)からひもとき、心ある医療者として問われる資質とは何かを一緒に考えていく。 <トピック>メタ認知について、個人の信念、文学を通してみる医療、NVC(共感的コミュニケーション)、宗教とは何か、死とは何か、映画を通してみる医療、異文化コミュニケーション <受講者からのフィードバック>総じて肯定的な感想が多かった中でも「探していた自分のことば」が見つかったというコメントから、この講義の意義を再認識した。医療への依存と過信、社会的弱者の排除、人間の孤立などはコロナ以前にも日本に存在していたが、図らずもコロナ騒動によってそれが露呈した。医療者として医師法第1条にある「医師は(中略)国民の健康な生活を確保するものとする」という医療の目的を達成するためには、他者の苦しみや痛みを知りそれに突き動かされて行動するための人文学的・社会学的視点が欠かせず、文学や映画を通した人間理解は具体的手法として医療者全員に提供すべきものであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度に実施した「医療人文学入門」では『夜と霧』や『苦海浄土』などの文学作品を読み解きながら人生の苦悩やそこから浮かび上がる生きる意味について考えた。夜と霧では仏教の「随所に主となれば、立つところみな真なり」「このからだは私以外のすべてのものからできている」といった言葉、また神話学者ジョセフキャンベルの「人生には目覚ましがある」という考えを補助線として「calling=天職」について考え、フランクルが提示する創造価値・体験価値・態度価値と人生の意味についてディスカッションを試みた。NVC(共感的コミュニケーション)について自分のコミュニケーションパターンに気づいていることもメタ認知の一つでありこれまで自分が慣れ親しんだパターンから抜け出すことはそう容易ではないけれども他者と繋がるためには必要であることを学んだ。「宗教とは何か」では禅僧ティクナットハンに関するドキュメンタリーをみて、諸行無常、諸法無我(インタービーイング)、慈悲、などについて一緒に考えた。「プロフェッショナリズム」では医療と社会との関係、患者のナラティブ(聞こえてくるナラティブと同時に、声にはならないけれども想像することで聞こえてくる物語も)に耳を傾けること、医療の限界とそれを補うものとは、医師としての気概と信念、などについて「赤ひげ」から受け取ったメッセージについてシェアした。さらにイギリス人Luke Fieldsの描いた「The Doctor」から。抗生物質が無かった時代(19世紀後半)、乳幼児死亡率はどれくらいだったのか、医師が出来ることはどんなことだったのか。労働者階級の患者に対して、本当に夜通し診察をしたのだろうか、などなど頭で考えるより想像して感じたことをシェアした。以上は講義の一部であるが、医療を多面的に捉える試みとして受講者は一様に好意的な反応を示していた。
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Strategy for Future Research Activity |
文学作品を読み解く中で、日本人の信念形成や死生観と深く結びついた仏教について研究を深める必要性がでてきた。特に苦海浄土で石牟礼道子が描く穢土における地獄(水俣病とそれを引き起こした人間の欲、国・企業を象徴とした経済発展のための小さきもの達の犠牲)と救済としての浄土という日本的感性の土壌の上に構成される物語の理解は特に重要である。よって次年度は、日本に広く行われている大乗仏教思想について概観することも平行して取り組む。二年続けてのコロナ騒動で予定していた海外調査などができず、今後は国内での調査を中心に進めるが研究期間の延長も視野に入れたい。
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Causes of Carryover |
前年度に続き海外調査はおろか国内出張まで制約を受け、予定した予算使用ができない状態が続いている。次年度は完成年度であるが、研究期間延長を視野にいれている。
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