2020 Fiscal Year Research-status Report
多クローナルなVREの地域流行と院内伝播の拡大を解明するための病原体比較解析
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20K10442
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Research Institution | Osaka Institute of Public Health |
Principal Investigator |
原田 哲也 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 微生物部, 主任研究員 (70516723)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | バンコマイシン耐性腸球菌 / 耐性プラスミド |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年1月から2020年9月に大阪府とその近隣県で患者あるいは無症状保菌者より分離されたvanA保有のバンコマイシン耐性腸球菌(VRE) 566株(Enterococcus avium;5株、E. casseliflavus;2株、E. faecalis;1株、E. faecium;554株、E. gallinarum;1株、E. raffinosus;3株)を供試株とした。さらに、2010年以前に大阪府内で分離された患者由来のvanA保有E. faecium 5株ならびに2008年から2017年に大阪府内で流通する鶏肉より分離されたvanA保有VRE 24株(E. faecalis;16株、E. faecium;8株)も供試した。すべての供試株について制限酵素SmaIを用いたパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法による遺伝子型別を実施した。vanA保有E. faeciumについては、Dice法(最適化1.0%、トレランス値1.0%)で類似度を算出後、非荷重結合法により系統樹を作成し、類似度80%を基準として代表株56株を決定した。その他の菌種については、全ての株を代表株とした。 vanA保有E. faeciumのうち、2018年から2019年に大阪府中部の隣接する2市にある5つの医療機関で分離された14株について、先行的に菌株解析を実施した。SmaI-PFGE法で類似度90%を基準として7株を代表株とした。この7株の保有する耐性プラスミドを解析するため、S1ヌクレアーゼを用いたPFGEとvanAプローブによるサザンハイブリを実施したところ、6株で約110kbのvanAプラスミドの保有が明らかとなった。代表株についてはゲノム解析を実施し、ショートリード データを得た。さらに、Sequence Typeの異なる4株については、ロングリードデータを取得した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、本研究で供試する代表株を決定することを最も優先すべき目的とした。2020年9月までに分離された臨床由来株、ならびに2017年までに分離された鶏肉由来株についてPFGE型別を実施し、代表株を決定した。また、次年度以降のゲノム解析を円滑に進めるため、解析用パソコンや外付けハードディスクといったハード面の整備ならびに解析用ソフトの導入を行った。一部のVREについて、導入した設備およびソフトで実際に解析を行い、解析手順を確認した。さらに、次年度以降に接合伝達試験を実施するため、レシピエント株の準備を行った。レファレンス株の入手に加え、分離株の抗生物質耐性化を実施した。 一部の代表株については、先行してゲノムデータを取得し、菌株解析を実施した。これにより、大阪府内の一部の隣接する地域で分離された異なる系統のVREが、類似度の高いvanAプラスミドを保有することが明らかとなった。 これらの実施状況から、令和2年度に予定していた項目は概ね計画通りに進めることができたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は代表株のゲノム解析と接合伝達試験を優先的に実施する。臨床由来株および鶏肉由来株について、cgMLSTあるいは一塩基多型による系統解析を実施するとともに、耐性プラスミドならびにvanA遺伝子群の構造比較を行う。さらに、必要に応じてナノポアによるロングリードシーケンスを実施し、コンプリートゲノム配列の取得を目指す。また、filter mating法あるいはbroth mating法による接合伝達試験により、2016年以降に分離された地域流行株の耐性プラスミド伝達効率を、それ以前の臨床分離株、鶏肉由来株、あるいはレファレンス株と比較する。さらに、S1ヌクレアーゼによるPFGEとvanAプローブを用いたサザンハイブリを実施し、耐性プラスミドのレシピエント株への伝播を証明する。代表株についてバイオフィルム形成試験、アミノグリコシド系、ストレプトグラミン系、オキサゾリジノン系薬剤およびエタノール等の消毒剤に対する感受性試験を実施し、病原性の評価を行う。さらに、取得したゲノムデータとこれら表現型の結果を比較し、薬剤耐性遺伝子および病原遺伝子を特定する。代表株間で共通する耐性プラスミドについては、その遺伝子マーカーを決定するため、得られたゲノムデータから特異的配列を検索する。さらに、決定した遺伝子マーカーを特異的に検出するためのプライマーあるいはプローブを設計し、遺伝子検出法を確立する。 各項目を可能な限り同時進行で実施し、それぞれの進捗状況に応じて計画を修正することで本課題全体の着実な推進を図る。
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Causes of Carryover |
2020年度新たに研究対象となったVREは十数株で想定よりも少なく、PFGE関連消耗品についての支出はなかった。また、コロナ感染症の蔓延に伴い、参加予定であった研究会を見送った。さらに、世界的なプラスチック消耗品の供給不足により、一部の製品が購入困難となった。ゲノム解析については当初民間企業への外注を予定していたが、別件で他の研究協力機関に無償で依頼することができたため、経費は不要となった。これらの結果、20万円余の次年度使用額となった。 2021年度は主にナノポアによるロングリードシーケンス、接合伝達試験、vanA遺伝子を標的としたサザンハイブリダイゼーション、薬剤感受性試験を実施する予定で、これらに関連する消耗品の購入が必要となる。また、薬剤耐性菌研究会での成果発表を予定しており、旅費を計上している。研究の進捗状況によるが、一部地域のVRE感染症に関する論文発表のため、英文校正を実施する予定である。これらの実施に合わせて計画的に予算を執行していく。
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Research Products
(2 results)