2020 Fiscal Year Research-status Report
高齢者の認知機能や呼吸機能に水中運動は陸上運動より有用か?
Project/Area Number |
20K11303
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
渡部 厚一 筑波大学, 体育系, 准教授 (30447247)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 水中運動 / 呼吸機能と換気パターン / 脳血流 / 運動強度 |
Outline of Annual Research Achievements |
プールなどの水中環境下での浸水時には浮力や水圧が影響する。特に水圧は、胸腹部では横隔膜や胸郭の動きを制限し、下肢では血液を胸部に押し上げ静脈還流量を増加させて一回拍出量の増加にも関与し、心拍数は減少させるが全体として心拍出量は増大させる一方、肺コンプライアンスは低下する。このことから、水中運動時には陸上よりも努力呼吸を行う必要があり、陸上に比べ換気パターンが異なる可能性がある。また、換気の変化や心拍出量などの変化は脳血流に影響を及ぼす因子である。したがって、これらの環境差は長期的な水中運動を行うことによる呼吸機能や認知機能を改善させるかもしれない。 そこで本研究では、健常者を対象に酸素摂取量を統一した陸上自転車運動と水中自転車運動を、運動強度と換気・脳血流との関係を調査するために低、中、高強度の3条件で実施した。 本研究で得られた主な結果は、両自転車条件で酸素摂取量および一回換気量(呼気・吸気)は同程度であったのに対して水中条件における高強度運動では1)吸気時間の短縮、2)呼吸数の増加、3)終末呼気二酸化炭素の増加が生じた。また、脳血流の指標として用いた酸化ヘモグロビン濃度Oxy-Hbは4)水中条件・陸上条件ともに運動強度の変化に伴い増加し、5)中強度の段階から水中条件の方が陸上条件よりも高かった。 水中運動における高強度運動では換気量は維持できるものの、肺の拡張時間は制限されることから、水中運動は陸上運動に比べて呼吸器に負荷をかける運動様式である。したがって、長期的な水中運動は呼吸機能に慢性的な効果を生み出すかもしれない。また、水中環境における血行動態の変化は陸上環境と比較して低い強度の段階から脳血流の増加に影響を及ぼした。そのため、高齢者など高強度運動の実施が難しい場合などに低い運動強度で脳の活動を高める可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度に計画していた、研究課題1「成人男性における一過性の水中での運動が呼吸機能および認知機能に与える影響」を年度内に実施することができ、データの取得も完了している。一方、研究課題2では、高齢者を対象に12週間の介入研究をする計画であったが、新型コロナウィルス感染症の拡大により、研究対象者となる高齢者の募集が困難となったこと、水中運動施設に使用制限が生じたこと、感染対策上の問題から特に呼吸機能測定は困難であったことなどの理由から研究が遅れてしまった。以上の理由によりやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
呼吸器は加齢に伴って低下する器官であり、有害物質などを吸入することによる外的要因が作用することで呼吸器疾患を発症しやすくなる。症状が悪化すると運動や疾患発症時に1回換気量が十分増加せず、呼吸困難感や息切れといった症状が発生する。これらの症状は運動耐用能の低下を招き、身体活動量の減少を引き起こすだけでなく、呼吸機能の低下に伴う低酸素状態は高齢者の認知機能の低下を招くと示唆されている。水中運動は関節の痛みを軽減しながら、高齢者の有酸素能力を向上させることが報告されている(Wang et al, 2007, Suomi et al, 2007)。さらに水中運動中は横隔膜の制限と肺コンプライアンスの低下が起こり、呼吸器に負荷がかかるとされる。したがって、水中環境は陸上環境よりも有酸素能力に影響を与え、呼吸筋力や認知機能を向上させる可能性がある。そこで本研究は、中高齢者を対象に水中運動と陸上運動介入を実施し、運動様式の違いが呼吸機能・認知機能に与える慢性効果を検討する。 従って、研究上の制限は予想されるものの、新型コロナウイルス感染症の蔓延のコントロールを期待し、現状では、当初の研究計画を継続する予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度に予定していた研究課題のうち、高齢者を対象に運動介入を行う研究課題2では、新型コロナウィルス感染症の影響により、高齢者の募集が困難となり、研究が進捗できなかったため、これにより生じる謝金などの人件費と、脳血流測定機器の調整を行わなかったことより次年度使用額が生じた。2021年度については、新型コロナウイルス感染症のコントロールを期待し、高齢者を対象とした運動介入研究をすすめることにより、経費を使用する計画である。
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