2020 Fiscal Year Research-status Report
The politics of securitization and desecuritization of "boat people" in Australia
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20K12351
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
飯笹 佐代子 青山学院大学, 総合文化政策学部, 教授 (30534408)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鎌田 真弓 名古屋商科大学, 国際学部, 教授 (20259344)
加藤 めぐみ 明星大学, 人文学部, 教授 (30247168)
山岡 健次郎 香川高等専門学校, 一般教育科(詫間キャンパス), 准教授 (10584394)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | オーストラリア / ボートピープル / 難民 / 安全保障化 / 境界 / 難民文学 / 難民アート / 多文化主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
飯笹は、近年の移民・難民の「安全保障化」と称される現象について、理論的アプローチとともに、オーストラリアの動向をカナダの事例と比較しつつ考察した。また、現代アートの国際芸術祭シドニー・ビエンナーレに出展された越境や難民危機をテーマとした作品、さらには豪政府の国外難民収容政策に対するアーティストたちの抗議運動にも着目した。研究会では「難民問題とアート/アーティスト」と題して報告した。 鎌田は、20世紀初頭から1950年代までのオーストラリアの移民政策に着目して、アジア系労働者の移動をコントロールするための「境界」および運用方法を詳察した。具体的には、当時アジア系年季契約労働者が多く雇用されていた真珠貝採取業に関する公文書を精査し、雇用許可制度を柔軟に適用することによって「不都合」な労働者の入国を阻止するとともに、国内のアジア系経営者のビジネスの拡大を制限していたことを明らかにした。 加藤は、ベフルーズ・ブーチャーニの『山々よりほかに友はない』(2018)及び映像 “Chauka Please Tell Us the Time”(2017)の難民当事者がリアルタイムで発信する言説を分析、作品の芸術的意義だけでなくアクティビズム的影響力について考察した。さらにフェリシティ・カスターニャの『ノー・モア・ボート』(2017)にみる、移民がレイトカマーを排除する心理描写と社会的背景を分析した。研究会では上記の作品にみる「境界」の意味と、その概念の揺らぎについて報告した。 山岡は、グローバルな難民移動と国際社会による人の移動の「安全保障化」とのせめぎ合いによって形成される、新たな境界領域について考察した。研究会では、冷戦期に確立した難民保護という人道主義的な実践が難民との政治的な関係性を疎外してきたことを論じた。また、豪多文化主義政策をそうした観点から再考する必要性を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染拡大の影響により、各メンバーとも予定していたオーストラリアでの現地調査を実施することができず、研究の進捗に支障をきたしたことは否めない。ただし、入手し得る文献・資料・映像等を最大限に活用しながら研究を進め、研究会もオンラインを使用して予定通り計3回開催し、研究報告に基づく実りある意見交換を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
各メンバーは、それぞれのディシプリンの方法論に基づき以下を中心に研究を進め、計3回程度の研究会を設けて最新の研究成果を共有し、議論を通じて研究の深化を図る。必要に応じて関連分野の専門家をゲストスピーカーとして招聘する。また、渡航が可能となれば、オーストラリアでの現地調査を検討する。 飯笹は、引き続き、ボートピープルの安全保障化をめぐる政策言説と、それに対する世論や社会の反応の推移を把握する。また、難民問題に関わるアーティストたちの具体的な活動やパフォーマンス、作品制作の与える影響とそれらの評価について考察する。加えて、研究全体の総括を行う。 鎌田は豪公文書館の史資料や豪国立図書館の各省庁の年次報告書を精査して、オーストラリアの「境界管理」システムの様態を、移民政策による労働者の入国・雇用管理と漁業法による水域管理の状況から検証し、アジアの「脅威」への対抗措置としての政策とそれを支える言説を明らかにする。 加藤は「白いオーストラリア」を脅かす移民・難民の「不法性」や「危険性」を強調する言説に対する当事者たちの対抗ナラティブを引き続き分析する。Michael Mohammed Ahmadの作品The Tribe (2014) The Lebs (2018)と、その実践的活動にも着目して主流言説への影響を探る。 山岡は、言説においては対照的であるはずの「安全保障化」と「人道主義」は、境界空間においては奇妙に共存可能となっているという問題意識のもと、オーストラリアによる難民保護/排除の実践をグローバルな難民移動の文脈で捉え直し、従来のオーストラリア研究を超えた視座を提起していく。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染拡大の影響により、各メンバーとも予定していたオーストラリアでの現地調査を実施することができなかった。次年度は渡航が可能となれば、以下の目的で海外調査を行うこととしたい。 飯笹は、2022年に開催される第23回シドニー・ビエンナーレはじめアート現場における調査、鎌田は労働者の入国・雇用管理と水域管理の歴史的推移に関する文献調査(北部準州図書館、公文書館など)、加藤はビクトリア州でのインタビュー調査(Ahmad 及び文学で難民支援を行うJanet Galbraithなど)、山岡は第二次世界大戦後の難民受け入れの出発点となったビクトリア州のボネギラ移民収容所及び、キャンベラで1950・60年代に展開された「良き隣人運動」についての調査など。
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Remarks |
・加藤めぐみ「書評:アーノルド・ゼイブル著『カフェ・シェヘラザード』(菅野賢治訳 共和国 2020年)」『オーストラリア研究』第34号 pp.95-97 (2021年3月)ISSN:0919-8911 ・加藤めぐみ「アーノルド・ゼイブル『カフェ・シェヘラザード』刊行記念喪失の記憶、物語の循環」パネリスト、オンラインイベント(主催:マリルカ・プロジェクト、共和国株式会社)、2020年10月31日
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