2021 Fiscal Year Research-status Report
Empirical analysis of the impact of regional currencies on tourism consumption
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20K12425
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
河野 憲嗣 大分大学, 経済学部, 教授 (10631400)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 地域通貨 / プレミアム付商品券 / 観光消費 / チェックトランケーション / 紙 / 決済システム / 電子交換 / 過剰品質 |
Outline of Annual Research Achievements |
消費者の行動を左右する要因として決済手段に着目し、特に紙片で発行される地域通貨やクーポン、プレミアム付商品券が消費行動に与える影響の分析に取り組んだ。紙片の商品券事業を実際に推進している小樽市の商店街で、昨年度に引き続きインタビュー調査を実施した。定量データの収集が難しい実質的な経済効果に関する定性情報を得ることができた。少なくとも現場の店舗ではプレミアム付商品券の消費喚起効果への関心が高く、公的な資金に頼らない事業運営への期待も寄せられた。他にも電子マネーなどデジタル決済導入を推進する風潮に対する現場の考え方や本音、紙で商品券を発行する際の運営主体の入札に関する実態や課題などの情報を得た。 紙片の決済手段による消費動向を可視化するために換金処理などを円滑に進めるイメージ交換システムの構築を完了した。2021年1月に実施した京都の伏見大手筋商店街で本システムの実証実験で収集したデータを整理、分析した。AI-OCRによる紙の真贋判定結果は90%を超えることが判明した。この結果に基づいて、商店街関係者へ追加のインタビュー調査を実施したところ、現場では真贋判定の精度へのこだわりは低く、データの送受信や入力結果の反応速度などに対する改善を希望する声が大きかった。券面データの画像を送信する店舗側及びチェックする事務局側双方が目視できるシステム仕様にしており、システムの技術的な向上よりも当事者間の操作性や真贋に対する納得度が優先される現場の状況が確認できた。研究開発の成果を社会実装する上で大きな示唆を得た。 本研究の成果の一部は国内および国際学会にて発表した。また大分大学産学官連携推進センターで作成した研究者の紹介動画で本研究の一部を公開した。ここまでの研究成果に基づくアイデアにより特許出願を2件実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度に前倒しでシステム開発を実現したイメージ交換システムを稼働させて2021年1月に京都の伏見大手筋商店街で行った実証実験で収集したデータを整理、分析した。定量データとしては、システムを利用した約600件のデータや実験参加店舗から回収したアンケート調査を回収している。新型コロナウイルスの影響により観光客の人流が激減したことから、消費動向の検証対象として収集するデータは観光客のものに限定せず、商店街を利用する消費者全般を対象とした。2021年度も新型コロナウイルスの影響で外出や人的接触の制限などが継続したため、当初の研究計画で予定していた候補地である小樽市梁川商店街および大分市内の商店街におけるフィールドワーク及び実証実験は見合わせることとした。一方で産学官連携推進センターや地元企業の協力を得て、改めて大分県内での実証実験の試行に向けて検討を開始した。 事前調査については小樽市にてフィールドワークを実施し、紙で発行されるプレミアム付商品券事業の課題や可能性についてインタビュー調査および参与観察を実施し、定性情報を収集した。新型コロナの影響で延期となった現地での実証実験についても、環境が整い次第、着手できるよう、商店街や地元の大学関係者と準備を進める体制を構築した。準備研究については、決済手段の多様化に伴う購買行動への影響に関する先行研究のレビューを実施し、今後研究テーマとして掘り下げるべき論点を洗い出して整理した。研究会については、オンラインで有識者と意見交換する機会を設けて実施した。ホームページを通じた成果発信については発信チャネルやリンク先の選定、およびコンテンツの制作に着手しており、2022年度の公開に向けて継続して取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度及び2021年度に実施した調査研究の成果をまとめて公開の準備を進める。具体的には論文執筆、学会報告、ホームページによる成果の公開である。また最終年度となるため、本研究の成果を発展的に継続するために新たな研究計画の立案を進める。展開の方向性、構想の概要は次の2点である。第1は研究開発における過剰品質と社会実装の関係性についての考察である。研究開発はテーマを定めて、こだわりをもって突き詰めて考え抜く特性がある。しかし、当該テーマや技術が社会でどのように受容されるか、すなわち社会実装の可能性を研究開発のプロセスの一環として考慮する比重は大きいとは言えない現状がある。SDG’sをはじめとする多様な社会課題の解決を視野に入れつつ、研究計画を策定する。第2は支払手段の多様化が消費行動に与える影響に関する考察の深化である。本研究を通じて明らかになって論点の1つは、支払手段の多様化は消費者のみならず支払手段の受け手である販売者、店舗にも影響している点である。従来の研究では支払手段の多様化が消費行動に与える影響を考える際、消費者を対象とした議論を前提としている。しかし消費行動は消費者だけでは完結しない。消費者が支払手段を渡す対象者である店舗サイドがそれを受け入れることで購買行動は成立する。したがって支払手段の多様化が消費行動に与える影響を考察する際、消費者の視点のみでは十分に議論を尽くしたとは言えない。支払手段の多様化に対する店舗の認識や対応の現状を把握し、店舗の対応状況を通じた消費行動への影響の調査へ進むよう計画している。新たな研究計画でも、今回の研究で取り上げた紙のプレミアム付商品券事業における調査手法を組み入れて発展的に活用する。
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Causes of Carryover |
役務費用について、当初見積もりと実際の支払額に2,971円の差分が発生したため。繰り越した2,871円と2022年度予算の300,000円は物品費に50,000円、旅費に250,000円を計上して使用する計画である。2022年度の物品費の使途内訳は書籍やプリンターインクなどの消耗品、旅費の内訳は小樽市でのフィールドワークに80,000円、京都でのインタビュー調査に50,000円、東京でのシステム開発打合せを120,000円(2回)を予定している。
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