2022 Fiscal Year Research-status Report
Environmental Design Research from the viewpoint of stone association of Industry, Architecture and Townscape in Stone Town
Project/Area Number |
20K12507
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
安森 亮雄 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (20456263)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 地域素材 / 石材 / 凝灰岩 / 大谷石 / 房州石 / 高畠石 / 十和田石 / アクターネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、1年目の関東近県、2年目の東北の〈石のまち〉の概要の把握をふまえ、3年目として、これまで調査した中から、凝灰岩の最大の産地である大谷石(栃木県)、手掘りの採掘が続いた高畠石(山形県)という特徴的な石材と、機械掘り以降に採掘が開始された十和田石(青森県)を加え、また、日本遺産候補地である房州石(千葉県)について、実地調査を実施した。これまでに整理した(1)石の材質、(2)採掘・運搬と石切場、(3)石造建築と利用、(4)活用とまちづくりという4つの観点に着目し、また、同じ凝灰岩の中でも、重さや礫の有無に違いがあることから、材質の項目に比重を加えて比較表を作成した。 さらに、これらの採掘・利用・生業の連関を見出すために、分析手法として新たにアクターネットワーク理論を導入した。これにより、モノ(採掘や石材)とヒト(生業や生産組織)を同列のアクターとして連関に加えること、さらに、石材以外の農業や観光等との業種横断によって採石場や石材の新たな転用がみられることをふまえ、ネットワークを描き出す手法を構築した。 その結果、大谷石は比重が小さく加工性に優れるため、長さ3尺の定尺を基本としながら、手掘りの原始的な連関から、機械掘りで多様な石材による近代的な連関へと変化し、観光業による採石場の転用もみられること、高畠石は比重が大きく硬質であるため、長さ6尺の手掘りが継続し、採掘終了後も貯石による再利用が続き、近世的な循環を含む複合的な連関であること、十和田石は薄板に特化した建材と、その廃材利用等による農業資材を含めた他業種との連関を増やしたこと、といったネットワークによる石材のエコロジー(生態系)を明らかにすることができた。また、房州石は、鋸山のふもとに残る石塀や石垣の類型(タイポロジー)を分析し、地域的特徴を明らかにすることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
〈石のまち〉の把握について、コロナ禍の移動制限を経て、現地調査やヒアリングを精力的に行った。調査を継続し研究を取りまとめるために、研究期間を1年延長した。 令和2年度(1年目)は、石のまちの概要を整理し、関東近県の大谷石(栃木県)、房州石(千葉県)、伊豆石(静岡県)について把握し、技術伝播や消費地の東京・横浜を含めた都市間ネットワークを明らかにした。その成果を日本建築学会大会に投稿し(令和3年発表)、また大谷石文化学の委員として論考を発表し、伊豆石のオンラインシンポジウムに参加するなど、研究ネットワークも構築した。 令和3年度(2年目)は、東北の高畠石(山形県)、国見石(福島県)、秋保石(宮城県)について把握し、技術伝播や石蔵職人の移動など、東北の都市間ネットワークを明らかにした。その成果を日本建築学会大会に投稿するとともに(令和4年発表)、日本建築学会において採石産業軌道の再生提案(受賞)、同技術報告集において大谷石の上田原地区の類型分析、Docomomo国際会議において近代石造建築について発表した。 令和4年度(3年目)は、大谷石、高畠石、房州石、新たに十和田石(青森県)について実地調査した。アクターネットワーク理論を導入することにより、モノ(採掘や石材)とヒト(生業や生産組織)を同列の連関とし、業種横断による転用を含めて、石材のエコロジーを描き出す手法を構築した。また、石塀や石垣等の建築以外の類型(タイポロジー)を把握した。その成果を、日本建築学会大会に投稿するとともに(令和5年発表)、ISAIA国際会議における都市間ネットワーク、学協会誌におけるタイポロジーや地域産業の視点を発表し、大谷石と房州石の2都市で招待講演を行った。また海外における事例把握と研究ネットワークも構築した。 以上により、全体の計画を調整しながら、次年度の取りまとめに向けて概ね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
4年目の取りまとめの年度として、これまでの〈石のまち〉の調査分析をふまえ、未調査の石のまちの実地調査を補足しつつ、全体を体系付けて研究を取りまとめる。 調査対象としては、未調査であった本州西部の来待石(島根県)について把握する。棟石に使われる建築部位の特徴と、各地の鳥居等に使われた消費地との関連、採掘中の石切場について把握する予定である。あわせて比較の基準となる大谷石(栃木県)や日本遺産候補地域である房州石(千葉県)についても適宜、継続調査を進める。 当初計画していた日本列島の北端の札幌軟石(北海道)と南端の花棚石(鹿児島)については、これまでのコロナ禍の移動制限を考慮して、本研究では除外して本州の石のまちを中心に比較することにする。 調査と取りまとめでは、これまでに明確化した、(1)石の材質、(2)採掘・運搬と石切場、(3)石造建築と構造物、(4)活用とまちづくりの4つの観点から比較表を作成するとともに、3年目に導入したアクターネットワーク理論を用いて、採掘・利用・生業の連関と石材以外の業種横断を含めた石材のエコロジーを捉える。あわせて、現地の研究者や石材関係者と交流し、研究ネットワークのさらなる構築も進める。また、3年目の成果である大谷石、高畠石、十和田石の比較からみた採掘・利用・生業の連関による石材のエコロジー、および房州石の石塀・石垣の類型と町並みについて、日本建築学会大会で発表予定である。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍における移動・活動の制約のもとで、実地調査地区を一部変更した。研究期間を1年延長して旅費等を使用する。
|