2022 Fiscal Year Research-status Report
ビザンティン写本挿絵に見られる註解的機能の分析―聖堂装飾との関連において
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20K12857
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
辻 絵理子 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (40727781)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ビザンティン美術 / 写本挿絵 / イメージとテキスト / 聖堂装飾 / 詩篇 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は、ヴァティカン図書館ギリシア語写本1927番(以降、「1927番」)を中心に、現存する写本の図像、及び聖堂装飾プログラムとの関連性を分析するものである。 同写本は、旧約聖書の詩篇を本文とし、各詩篇本文のタイトルの前にコラム幅の挿絵を描く形式を持つ。これと同じ形式を持つ作例が現存しないため、挿絵の数が多く特殊であり、所蔵図書館においても貴重書に指定されているものの、この写本自体を取り上げる総合的な研究は行われてこなかった。本研究計画はこの写本を詳細に分析してその全体像を詳らかにするだけでなく、写本挿絵と聖堂装飾という、ジャンルを超えた図像の比較検討を行うことを最終的な目標のひとつとしている。 2022年度は、前年度までと異なり海外におけるまとまった期間の現地調査が可能となったため、トルコ、カッパドキアでの聖堂調査を行った。現地に詳しい専門家の助力を得て、未発表の聖堂を含めた様々な壁画の調査が叶った。同年度にライデンのAlexandros Pressから刊行された単行本でカッパドキアのトカル新聖堂、北小祭室を中心とした装飾プログラムについて発表したが、その箇所を現地で確かめることも出来た。 以上に加えて、1927番の全ての挿絵を、挿絵の中や周囲に書き込まれた銘文と共に、対応する本文と図像の選択、レイアウトの検討を行う作業を、他の全ての現存作例の該当箇所と比較しながら継続している。これらの検討は1927番の本文と挿絵、銘文だけでなく、現存する余白挿絵写本の該当箇所を逐一確認していくためどうしても長文になり、今後も書き続けていく必要がある。比較対象となる写本には、銘文等の書き起こしがなく、図版から直接銘を読み取って書き起こし、試訳をしている作例もあるため、全てをオンラインで公開し続けることによって、ギリシア語銘文を読解される諸賢からご指摘やご意見を賜れることを期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先の項目で触れたように、本研究計画の3年目である同年度において、初めて海外現地調査が叶ったことが大きい。実見することなく、文献や写真資料にのみ頼って執筆したカッパドキア、トカル新聖堂の論文を現地で確認できたことが非常に大きい。また、同地方の他の聖堂プログラムには興味深いものが多く、主要な聖堂の内部で動線や壁面の配置を体感しつつ、議論しながらまとまった時間を過ごせたことは、今後の研究にも大いに寄与することだろう。 研究成果の発表という点では、上記聖堂プログラムの論文を海外出版社から英文で発表できたことを挙げられるだろう。海外での出版は上梓まで非常に時間がかかることが難点だが、個人の努力でどうにかできるものではないので、今後英文での発表は公開時期が明確なオンラインジャーナルへの投稿を中心にすべきか検討している。また、同年度においても継続して1927番の基礎研究を投稿している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画の最終年度となる2023年度も、海外現地調査を行いたいと考えている。前半2年間の調査が叶わなかったため、写本資料に関してはオンラインに頼りきりであったが、近年のデジタルデータ公開の機運に大きく助けられた。国内からでも解像度の高い図像を確認できる作例が増えたことは素晴らしいが、同時にオリジナルの写本を実見しなければ分かり得ないことも明確になった。聖堂プログラムについても同様で、写本挿絵以上に現地における調査が不可欠であるため、本年度においても行いたい。
そうした調査の成果をまとめて論文を執筆し、発表していくのはもちろんのこと、本研究計画の当初から継続している1927番の基礎研究(1927番の全ての挿絵を、挿絵の中や周囲に書き込まれた銘文と共に、対応する本文と図像の選択、レイアウトの検討を行う作業)と他の挿絵を有するビザンティン詩篇写本群や同じ主題を描く他ジャンルの写本挿絵、聖堂装飾等との比較を、論文としてまとめ、発表していくことは、本年度においても積極的に続けていきたい。
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Research Products
(3 results)