2023 Fiscal Year Annual Research Report
ビザンティン写本挿絵に見られる註解的機能の分析―聖堂装飾との関連において
Project/Area Number |
20K12857
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
辻 絵理子 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (40727781)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ビザンティン美術 / 写本挿絵 / 余白詩篇写本 / 聖堂装飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は、ヴァティカン図書館ギリシア語写本1927番(以降、「1927番」)を中心に、現存する挿絵入り詩篇写本群に加え、福音書等の異なるジャンルの挿絵入り写本群の図像、及び聖堂装飾プログラムとの関連性を分析するものである。 同写本は、旧約聖書の詩篇を本文とし、各詩篇本文のタイトルの前にコラム幅の挿絵を描く形式を持つ。これと全く同じ形式を持つ作例は、他に現存しない。挿絵の数が多く、しかも類例のない特殊な図像が散見されるため、所蔵図書館においても最も重要な貴重書の1冊に数えられているものの、この写本自体を取り上げる総合的な研究は行われてこなかった。本研究計画はこの写本を詳細に分析してその全体像を詳らかにするだけでなく、写本挿絵と聖堂装飾という、ジャンルを超えた図像の比較検討を行うことを最終的な目標のひとつとしていた。 最終年度であった2023年、現地調査としてはキプロス島に残る聖堂の現地調査を行った。ラグデラのパナギア・トゥ・アラカ聖堂やアシヌウのパナギア・フォルビオティッサ聖堂をはじめとする優れたフレスコ画が残る聖堂群を訪れ、写真撮影や壁面配置の確認を行った。 この調査で得られた成果を全て発表することは年度内に収められなかったが、本計画全体を通して行ったものとしては、計画そのものの基盤となる写本調査とその成果の発表を継続したこと、関連する聖堂の現地調査を可能な限り行ったこと、またその成果の一部を海外で出版することが叶ったため、調査と発表のバランスは順調であったと言ってよいだろう。また、本報告書には間に合わなかったが、本研究の成果の一部も含めた内容を、ギリシャからの招聘研究者を交えた5月開催予定国際シンポジウムで発表し、英語論文にまとめて年内に投稿する予定である。
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