2020 Fiscal Year Research-status Report
石造物からみるブリテン島における古代と初期中世の境界
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20K12878
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
岩永 玲 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (90865586)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 石造物 / 製作技術 / ブリテン島 / 古代末期 / 初期中世 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ブリテン島の初期中世の石造物が古代の石造物から継承する要素の有無やその具体的様相を、技術面に焦点を当てて探る試みである。対象資料は、イングランド北部に分布する古代から初期中世の石造墓標・石造祭壇である。具体的な課題は、①加工痕分析に基づく石造物の加工技術の解明、②拡大鏡を用いた石造物の観察と露頭調査に基づく石材産地と石材入手法の推定、③意匠の型式学的検討に基づく石造物編年の構築と技術系統の抽出である。 初年度である2020年は、古代以来イングランド北部の一大拠点として機能した都市ヨークの資料について、①~③を実施する計画であったが、COVID-19により現地調査を実施できなかったため、②を見送った。①については、写真をもとに加工痕データの集成を試みたが、質・量ともに分析に足るものは得られなかった。③については、ヨークミンスター南翼廊出土の初期中世石造物群のうち、共通の主像を持つグループについて編年を組んだ。また、当該グループの施文技術の特徴を探るとともに、これまでに調査した同時期のヨーク周辺の石造物の施文技術との比較を行い、ヨークミンスター出土の石造物群がヨーク周辺の石造物と技術系統を異にすることを明らかにした。この成果の一部は、『持続する志』(2021年3月)において公表した。 次年度以降については、引き続き渡航を前提とする①②が困難なことが想定されるため、③に重点を置くよう研究計画を一部変更することにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
①石造物の加工技術の解明:個々の石造物に残された加工痕の肉眼観察および三次元計測を行い、加工の工程・使用された工具の種類・工具の用法等のデータを得る計画であったが、資料調査を実施できなかったため、報告書やデジタルデータベースに記載された写真をもとに可能な範囲でデータ集成を行った。しかし、写真から得られる情報には限界があるため、質・量ともに分析に足るデータを得られていない。 ②石材産地と石材入手法の推定:拡大鏡を用いた石造物の観察と、先行研究において石材産地の可能性が指摘されている地域(ヘッチェル・クラッグ、オトリーケヴン・リッジ)での露頭観察およびサンプリングを行い、石材の色調・粒径・組織・成分等のデータを得る計画であったが、調査が実施できなかったため進んでいない。 ③石造物編年の構築と技術系統の抽出:ヨークミンスター南翼廊出土の初期中世石造物群のうち、獣文を主像とするグループの編年作業を終えた。これらは2系列に分かれるものの、文様を施文する技術は同系統に属すること、当該技術は周辺地域の同時期の石造物には見られないものであることを指摘した(研究成果参照)。ヨークに特有の施文技術の系譜を、次年度以降継続して追っていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時における本研究の骨子は①②であったが、COVID-19の状況を踏まえ、渡航を前提とする②の実施は難しいと判断した。そこで計画を一部変更し、今後は③の充実を図るとともに、①は可能な範囲で解明を試みることで対応する。 ①石造物の加工技術の解明:新規調査が期待できないため、既に実見を終えている資料を研究対象とする。2021年度は、タイン川流域の資料の分析を進める計画である。 ③石造物編年の構築と技術系統の抽出:引き続き、ヨークに特有の施文技術の系譜を探る。またタイン川流域の石造物についても、意匠の類型化と型式学的検討を行い、①の成果と合わせて意匠と技術の相関関係について検討する。
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Causes of Carryover |
申請段階では、イギリスへの調査旅費が内訳の大半を占めていたが、COVID-19の影響により予定していた調査が実施できなかったため、次年度助成金が生じた。次年度以降も渡航が難しいと予想されることから、繰り越し分については、課題③にかかる報告書や書籍の購入、および国内の学会・研究会の参加にかかる旅費に充てる予定である。
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