2020 Fiscal Year Research-status Report
標準語と方言の関係から見る「親密さ」と「疎遠さ」 -ドイツ語圏スイスを例にして
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20K13025
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
大喜 祐太 三重大学, 人文学部, 准教授 (60804151)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スイス / ドイツ語 / 標準語 / 方言 / 地域的特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,ドイツ語圏スイスで使用される書きことばの分析を通じて,テクストに出現する方言や変種の持つ意味を考察することにある。 本年度は,ドイツ語圏スイスにおける標準語と方言の関係の考察を行った。考察対象をスイス式標準語で書かれた各種テクストに定め,テクストに出現する方言的要素について,特に質的観点から分析した。また,基礎的な研究資料を収集した上で,テクスト内に出現するスイスに特徴的な語彙を列挙しつつ,特徴的な語の用法を特定することに努めた。伝統的な文学作品から話しことば的特徴を多く備えるSMSやインターネット上での言語使用を考察すると,地域的要素の特定は使用域や時代背景などによっても左右されることがわかった。 さらに,そうした文学作品,新聞・雑誌などのテクストに見られるスイス特有の語彙や構文,言い回しを調査することに加えて,言語規範や言語使用者の規範意識についての考察を進めた。本年度の質的研究を踏まえ,来年度以降,ドイツ語圏のテクストの量的分析を通じてさらなる実証的なデータの収集を試み,地域的特徴がどのような文体的効果を与えているのかを明らかにしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,まず本研究のための基礎的な研究資料などの収集に努めた。テクストを分析するためには,実際の言語資料が必要とされるが,文学的テクストだけでなく,スイスの標準ドイツ語のあらゆるテクスト(主に書きことば)の収集および書き起こしなどの作業を進めた。 さらに,そうしたテクストの中から,スイス的語彙の抽出を行った。また,これまで行ってきたテクストのスイス的特徴について再検討するために,先行研究や辞書記述等を参考にして,スイスドイツ語およびスイス式標準ドイツ語の語彙をもう一度洗い出し,名詞,副詞,動詞,形容詞,前置詞といった品詞項目,構文・言い回しなどの文法項目に分類する作業を遂行した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,スイスのみで使用される語にコードを付与することによって,あるテクストがどれほどのスイス的要素を内包しているかを特定し,さらに語彙の用法を分析していく。加えて,テクストの中の出現頻度の高い語の組み合わせを調べた上で,ドイツのドイツ語とスイスのドイツ語の比較を行う。両地域のドイツ語の語彙には,どれほどの共通要素があり,また,相違があるのかをテクスト間で比較する。その際,語の共起ネットワークを構築することによって,視覚的にも理解しやすいデータを作成し,出現箇所別やテクスト種別に地域的要素の使用率を調べることを通して,方言的特徴がテクスト全体に与える効果を解明する。 また,本研究の目標の一つは,スイス式標準ドイツ語データベースを構築することにある。スイスのドイツ語の基本語彙・基本フレーズに関するデータベースの作成を行い,重要語彙に関する実践的な語彙集の製作を念頭に置いている。
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