2020 Fiscal Year Research-status Report
The Social Work of the Buddhist Community in the Russian Empire
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20K13201
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
井上 岳彦 大阪教育大学, 教育学部, 講師 (60723202)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カルムィク人 / ロシア帝国 / チベット仏教 / 教育 / 社会事業 / 福祉 / 慈善 / ロシア正教 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の流行によって、本研究課題探求の基礎となる現地史料の収集を行うことができなかった。そのため、公刊されている史資料を使って、ロシア帝国の宗教団体と社会事業の関係について、調査・分析を行った。 ブリヤート・カルムィク研究で著名なドイツ人研究者が2018年に上梓した、ドイツ語史料集について、英文書評を発表した。取りあげた史料集における現地社会の在地の論理を重視する姿勢は、本研究課題と共通性を持っており、著者との更なる学術交流が期待される。この史料集は、本研究課題の推進においても有用である。 令和2年度は、2回の口頭発表を行なった。6月27日に、近代中央ユーラシア比較法制度史研究会に招待され、ロシア帝国の統治構造とカルムィク社会の関係について、特に仏教教団の動向を中心に口頭発表を行なった。イスラーム地域研究者からは、ブリヤート社会との相違点について、多くの質問を受けた。本研究課題においても、カルムィク寺院とブリヤート寺院の違いについて、意識的に論じていく必要性があるだろう。10月8日に、ロシア科学アカデミー・カルムィク人文研究所の国際会議に参加した。本研究課題の論点と今後の発展について、現地研究者や欧米・アジアの研究者と意見交換し、史料の有無など有益な助言を受けた。現地の研究者との間で、今後も意見交換を行う基盤を作ることができた。 加えて、分担執筆者として、和書を発行した。牧畜民社会の変容によって、メイクシフトエコノミーとしての漁撈が重要になっていった過程について、論考を寄せた。ロシア帝国の定住化政策と貧困増大の問題、貧困による出稼ぎが招く家庭の崩壊と孤児の増加など、本書は本研究課題の今後の進捗にとって、とても重要なものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の流行によって、本研究課題にとって基礎となるべき、ロシア地方都市の公文書館史料を収集することができなかった。公刊史料の分析に関しても、国内出張が難しかったために、ほとんど調査することができなかった。そのため、先行研究から、ロシア帝国の宗教団体と社会事業の関係一般を大きく捉え、研究課題の今後の方向性について再検討するに留まった。 しかし、二次文献調査のなかで「カルムィク社会基金」という公助制度の内容とその誕生の経緯について、先行研究が十分に論じてこなかったことが判明した。この公的な救済制度の背景を明らかにし、ロシア帝国における非ロシア人・非ロシア正教徒への社会事業に対する考え方を分析することは、仏教界側からの社会事業参加の特徴を抽出するために重要な作業となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進は、新型コロナウイルス感染症の流行次第である。 研究代表者は令和3年度に北海道大学に異動したため、令和2年度と比べて、公刊史資料を閲覧することが容易になった。流行が収まるまでの期間では、「カルムィク社会基金」制度の思想的・歴史的背景について、公刊史資料の分析によって、明らかにする。 【現地調査できる場合】当初の計画で初年度に行う予定だった、ロストフ・ナ・ダヌーでの調査を行う。主に高齢者と孤児の保護について、行政府、ロシア正教会、仏教寺院の動向に注意しながら、アーカイヴ史料を蒐集し、分析を行う。 【現地調査できない場合】公刊史資料を利用し、ロシア帝国一般の社会福祉・社会事業について整理するとともに、ロシア帝国ムスリム社会の事例を参考に、非ロシア人・非キリスト教徒、あるいは「異族人」に共通する臣民の「幸福」について検証を行う。 また、国際中欧・東欧研究協議会(ICCEES)の第11回世界大会に参加し、仏教教団のメンバーシップ論争について口頭発表を行う。ここでは、一般家庭で扶養できない孤児や高齢者の引き取りについて、ロシア正教会と仏教寺院の対立について論じる。口頭発表を通じて、世界から集まる研究者と意見交換を行い、本研究課題の研究計画の見直しを図る。
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Causes of Carryover |
令和2年度は、ロシアの地方都市トストフ・ナ・ダヌーのアーカイヴ史料を調査する予定だったが、コロナ禍のために、調査を行うことができなかった。また、それを代替する国内出張についても、所属機関の許可が出なかったため、多くの公刊史資料を所蔵する北海道大学で調査を行うことができなかった。 令和3年度は、北海道大学へ異動になったため、感染流行状況下でも、ある程度自由に、公刊史資料を使用することができると思われる。ロシアへの出張は、早くても年度末になると予想される。そのため、当初の計画の初年度調査を1~3月に予定し、繰越金を充てる。また、研究計画の見直しによって、ロシア帝国全体の社会事業・社会福祉史の理解を深める必要性、ブリヤート社会との比較の必要性が生じたため、当初の計画より範囲を広げた図書資料の購入を行う。
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Research Products
(4 results)
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[Book] 牧畜を人文学する2021
Author(s)
シンジルト、地田 徹朗
Total Pages
232
Publisher
名古屋外国語大学出版会
ISBN
978-4-908523-29-8