2020 Fiscal Year Research-status Report
海洋生物の捕獲と養殖をめぐる文化人類学的研究:中国・台湾・フィリピンの事例から
Project/Area Number |
20K13290
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
藤川 美代子 南山大学, 人文学部, 准教授 (10749550)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 台湾 / 海藻 / 石花菜 / テングサ / 海女 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、海外現地調査は全面的に、国内現地調査は部分的に制限せざるを得ない状況にあった。そのため、本課題採択前の2019年度までに実施した現地調査で得られたデータの整理、関連する分野の文献の渉猟・精読、研究成果の発表に努めた。 本課題は、①海の動植物に対するドメスティケーション(栽培化・養殖化)、②海という空間の制御(自然災害予防)、③海に生きる人々の統治(国境管理・国家防衛・海洋保護)にかかわる管理システムの総体を「海を飼い馴らす技術」と名づけ、それらが自然状態としての海に含有される不確実性の克服手段として精緻化されるプロセスを追うことで、海に生きる人々が経験した近代化の一端を捉えることを目指している。「海を飼い馴らす技術」を理解するためには、人は「飼い馴らすことのできない領域」といかに向き合ってきたかを明らかにすることも重要である。そのために今回注目したのは、台湾の海で養殖化がまったくなされていない海藻採集・流通をめぐってくり広げられる人間模様である。 2021年3月発表の論文「よい『石花菜』とは何か―台湾東北角におけるGelidiaceaeの採集・加工・売買をめぐる民族誌的研究」では、「よい石花菜(紅藻類テングサ科の総称)」をめぐる多様な解釈に注目し、台湾東北角における石花菜の採集・加工・売買の様態の特徴を論じた。注目したのは、①ダイビングのインストラクターや原住民族と雇用関係を結び大規模な石花菜採集を展開し、台湾内外で販路を開拓する卸売業者(男性)、②自身も素潜りで石花菜を採集し、露店で石花菜の加工品を小売販売する店主(女性二人、男性一人)の語りと、①と②の間でくり広げられる複雑な石花菜の売買である。さらに、日本の伊豆半島におけるテングサのランク付けや競売の仕組みと比較することで、台湾東北角の石花菜をめぐる価値決定システムの特徴を導いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、海外現地調査は全面的に、国内現地調査は部分的に制限せざるを得ない状況にあったものの、本課題採択前の2019年度までに実施した現地調査で得られたデータの整理、関連する分野の文献の渉猟・精読、研究成果の発表に努めることができたため。シンポジウムでの発表では、他分野(特に理系)の研究者との意見交換ができたことは幸いであり、今後の研究に活かせるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響が見込まれるなかで、海外・国内現地調査は大幅に制限されることが予想されるが、台湾をはじめとする地域の研究者や調査対象者とオンラインでの交流を深めながら、研究を進めていきたい。また、中国・台湾・フィリピン・日本の海を対象に研究を積み重ねてきた多様な分野の研究者と意見・情報の交換をしながら、海に生きる人々の世界についての理解を深めたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、予定していた国際学会への参加や海外・国内現地調査実施のほとんどが実現しなかったため、2020年度請求分の大部分を使用せず、「次年度使用額」が発生した。これは、2021年度請求分と合わせて現地調査旅費、関連学会参加費・旅費、調査協力謝礼、文献購入費、文献複写費、論文翻訳費などに使用する見込みである。
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