2023 Fiscal Year Research-status Report
海洋生物の捕獲と養殖をめぐる文化人類学的研究:中国・台湾・フィリピンの事例から
Project/Area Number |
20K13290
|
Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
藤川 美代子 南山大学, 人文学部, 准教授 (10749550)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 文化人類学 / 海藻 / 海洋資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、特に海藻の採集・加工・流通・消費に関する知見を広めるべくフィールドワークと資料調査を実施することに注力した。 1)台湾では、「洋菜」と呼ばれるオゴノリ由来の工業寒天の製造・流通について理解することに努めた。洋菜メーカーの創業者などへの聞き取りから、台湾では日本統治期に日本人がテングサを使用した寒天工場を経営し、戦後になって台南でその技術が引き継がれたものの、テングサ資源の枯渇と価格高騰により、1970年代までにはオゴノリを使用した寒天へと転じたこと、2000年代初頭には工業廃水の環境問題化により工場の海外移転が進んだことなどがわかってきた。聞き取りで得られた断片的な情報を、系統的に記述し、分析するために、さらなる情報の把握に邁進したい。 2)一方の日本では、天然・養殖ワカメの一次的な加工の地域的バリエーションを把握することに努めたほか、テングサやオゴノリに由来する寒天の最終的な加工品である羊羹の製造工程では、いかなる性質をもった寒天が好まれるのかを知ることに着手した。前者に関しては、同じ天然のワカメでも、地域によって「ワカメが採れなくなる条件」に関する民俗的知識に大きな差があることが明らかになったほか、養殖ワカメの加工をめぐって隣り合う地域でまったく異なる方法がとられており、それに対する評価が地域で分かれるという興味深い事例に出あうことになった。 さらに、台湾での海藻文化に関わるこれまでの研究成果を台湾国立海洋科学技術博物館での講演により地元に還元することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本各地や台湾でのフィールドワークと資料調査を順調に進めることができた。研究の対象は、海洋生物資源のなかでも特に海藻に絞られつつあり、そのことで対象をより深く理解することができると考えている。また、2023年度は海藻採集の現場のみならず、海藻の加工や流通に関わる人々とその歴史を断片的ながらも把握することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
主な対象とする海洋生物資源を「海藻」に限定して、調査・研究を継続する。台湾の海藻の流通・加工過程について研究するなかで、中国大陸や東南アジア(フィリピン・インドネシアなど)における海藻の養殖・加工についての理解が不可欠であることがわかってきたため、可能な限り、それらの地域にもフィールドワークと資料調査の範囲を広げる努力をしたい。
|
Causes of Carryover |
2020~2021年度まで新型コロナウイルス感染症の世界的拡大の影響で予定していた海外でのフィールドワークと資料調査が実施できなかったため。2022年度以降は当初の計画どおり、海外でのフィールドワークは実施できており、順調に経費を使用しているものの、最初の2年間で生じた残額を使用するまでには至らなかった。 2024年度以降は、日本国内、台湾・東南アジア・中国大陸などでのフィールドワークを実施するほか、録音機材等の物品購入費、図書の購入などに充てて経費を有意義に計画的に使用したい。
|