2020 Fiscal Year Research-status Report
「奴隷的拘束からの自由」の現代的意義を巡る比較法的研究
Project/Area Number |
20K13302
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小池 洋平 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 助教 (50779121)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 奴隷的拘束からの自由 / アメリカ合衆国憲法修正第13条 / 日本国憲法第18条 / 奴隷制 / 奴隷制廃止 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は「賃金労働が一般化している現代社会における《奴隷的拘束からの自由》保障の意義」を最終的に明らかにしようとするものである。この最終的な目的を実証的に達成するため,本研究課題では,【課題①】アメリカ合衆国憲法修正第13条(以下,修正第13条)を執行する立法の調査,【課題②】修正第13条が直接的・間接的に問題となった憲法判例の分析という2つの具体的な課題を設定している。 2020年度は【課題①】のうち,解放民局法に関する連邦議会審議の分析を中心に行った。1863年1月に「奴隷解放宣言」がリンカーン大統領によって発令されたことを受けて,連邦議会では解放奴隷に関する調査の必要性が議論されていた。奴隷を解放することは決定していても,解放後の奴隷たちをどのように社会が「受け入れる」べきなのかまでは依然として議論の的となっていた。 このような状況において,解放された奴隷の合衆国「市民」への移行を支援する連邦機関として構想されたのが解放民局であった。解放民局の骨格を定める解放民局法に係る連邦議会審議では,当該局の管轄権をどこに与えるのか,恒久的な設置とするのか,それとも期限付きの設置とするのかなど様々な論点が議論されており,その論争状況も入り組んだものであった。 本年度は,この複雑な解放民局法審議を,同時並行的に進められていた修正第13条審議と重ね合わせることで,修正第13条の制定を支持した連邦議会議員が奴隷制の廃止について具体的にどのような構想(特に,解放後の奴隷たちの労働の在り方に関する構想)を持っていたのか分析を行った。そして,修正第13条制定支持派が前提としていた労働成果享受権という発想が,解放民局法審議にも見られることを確認した。 2021年度は本年度の成果を踏まえつつ,【課題①】のなかでも「1866年公民権法」に関する調査・分析を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初,本研究計画において2020年度は解放民局法審議を分析することにあった。上記概要に記載したように,一応,計画通り遂行はできている。 しかし,COVID-19感染拡大による移動制限のため,資料収集面で制約が生じている。本研究課題の準備段階で基礎的な資料についてはある程度入手できていたが,分析を進めていくうちに必要となった新たな一次資料・二次資料の入手に時間がかかってしまっている。 また,アメリカ連邦議会図書館が来館者に提供しているデータベースを活用することを予定していたが,渡航制限のため利用できず,調査の効率性も低下してしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は「1866年公民権法」の連邦議会審議を中心に分析を進めていく。そして,修正第13条を具体化するための立法としてどのような構想が練られていたのかについて,2020年度の研究成果を踏まえて総括する。 2022年度と23年度は,上記概要で述べた【課題②】に取りかかる。具体的にはSlaughterhouse Cases合衆国最高裁判決などを分析する予定である。また,最終年度は,【課題①】と【課題②】で明らかとなった成果をまとめ,現代社会における《奴隷的拘束からの自由》の意義を見いだすための視座を総括する予定である。 上記進捗状況で記載したように,資料収集面での制約が生じており,今後の研究遂行に影響が出てくる可能性がかなり高い。そのため,国内からもアクセスできる別のデータベースの契約・活用などを検討している。
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Causes of Carryover |
CODIV-19感染症の拡大により,2020年度はアメリカでの資料調査(出張)が実施できなかったため,その旅費に係る次年度使用額が生じた。 次年度も海外での資料調査は難しい状況であることが予想される。そのため,(1)国内の研究機関が所蔵する資料の利用及び取寄せ,(2)他の研究機関(具体的には研究代表者が利用資格を持つ早稲田大学図書館)が契約しているデータベースの活用及びそれに係る旅費,(3)他の研究機関が契約していないデータベースの利用料などが新たに必要になる可能性が高い。 当初の研究目的を達成するために,次年度使用額はこれら新たに必要となった経費に充当する計画である。
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