2020 Fiscal Year Research-status Report
刑事違法論の再検討―生命侵害場面における功利主義的考慮導入の是非・限界を中心に―
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20K13342
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
坂下 陽輔 東北大学, 法学研究科, 准教授 (10735400)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 緊急避難 / 過失犯 / 功利主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず、我が国における緊急避難論及び過失犯論に関する判例・学説の分析により、問題状況・議論状況の正確な把握を行うことを試みた。それにより、緊急避難論においては(少なくとも学説においては)生命対生命の比較を困難なものとする理解が根強く存在しているのに対して、過失犯論においてはそのような問題意識は少なくとも明示的には示されていないということが明らかになった。これは少なからぬ緊張をはらむものともいえ、緊急避難論において比較を忌避する根拠と過失犯論において比較を容認する根拠とを明らかにすることが問題解決の出発点となるとの認識を改めて有するに至った(もちろん、我が国において緊急避難論に関して生命対生命の比較を可能とする立場も存在するため、その立場についても検討を行った)。
その上で、比較法の対象とするドイツおよびアメリカにおける緊急避難論及び過失犯論に関する基本的な文献(教科書・注釈書類)を検討することで、やはり一方でドイツにおいては、緊急避難論においては生命対生命の比較を困難とする見方が示されつつ、過失犯論においてはその問題意識がかき消されているという状況を確認し、他方でアメリカにおいては、功利主義的な発想が強く、緊急避難論においてもその比較は可能であるとされていること、しかし逆にその限定をすべきとの意識がやや希薄であるということが確認された。 以上のような形で2020年度は、次年度以降につながる本研究の地盤を確かなものにすることが出来たといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は今後の研究の地盤を固めるための期間であった。 我が国の議論における問題状況を明らかにしつつ、次年度以降の比較法の対象となるドイツ・アメリカにおける問題状況についても概略的に把握でき、さらに詳細に検討すべき文献類についてもある程度の見通しが立ったといえる。 ゆえに、今後の研究の地盤は十分に整ったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は比較法の対象であるドイツにおける議論を中心に検討する予定である。 2020年度における基礎的調査により主として参照すべき文献の見通しはできているので、その文献を中心に精読・検討することとなる。 計画していた、調査研究のためのドイツ出張はコロナウィルス感染拡大の状況に鑑み、断念する可能性が極めて高いが、彼の地の研究者と親交のある国内の研究者などを通じて、一定の意見交換ができるように努めたい。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナウィルス感染拡大により、予定していた国内学会・研究会がすべてオンライン開催となり、出張費が不要となったためである。 余剰金は、次年度以降徐々にそのような出張の機会が増えていけばそれに充てるとともに、必要な文献が当初の想定以上に存在することから、その入手に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)