2021 Fiscal Year Research-status Report
刑事違法論の再検討―生命侵害場面における功利主義的考慮導入の是非・限界を中心に―
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20K13342
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
坂下 陽輔 東北大学, 法学研究科, 准教授 (10735400)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 緊急避難 / 過失犯 / 功利主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度に身に着けた知見を基礎に、ドイツにおける法状況・議論状況について、調査・分析を行った。それにより判明したことは以下のことである。 やはり、ドイツにおいては緊急避難の議論においては、わが国に比して、他人の生命を犠牲にしつつ便益を得るということに対する警戒感が非常に大きい。現在、自動運転車の開発・利用に関して、功利主義的考慮に基づいて「許された危険」として許容するという議論が展開されているところではあるが、それに対しても、それは詰まるところ他人の生命を犠牲にしつつ便益を得ているに過ぎない、との批判がなされている。 しかし、そもそも伝統的な自動車の使用を許容することについても、一定の人の生命と社会的便益とが考慮されていることは疑いがないはずであり、「許された危険」という観点からの許容性を論じている論者は、そのこととの連続性をも睨み、生命を衡量に乗せることが出来る場合と出来ない場合とを慎重に区別しようとしているものと思われる。その区別の仕方を明瞭に言語化できている文献は発見できなかったが、過失犯のように行為を許容する段階での侵害性が(侵害発生との関係で時間的に離れており、また被害者が特定されていないという意味で)抽象的である場合と、臓器移植事例のように許容段階での侵害性が具体的である場合とで、生命侵害というタブーに触れる程度が異なる、という価値判断は垣間見られた。 以上のような形で、2021年度は、安易な生命対生命の比較を警戒しつつも、一定の場合に可能にする可能性を慎重に探るというドイツにおける議論を確認することが出来たといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はドイツにおける議論状況を検討する期間であった。 ドイツにおける議論状況を、生命対生命の比較を厳格に排斥する見解についても、その前提に共感しつつも一定の場合に可能にする可能性を慎重に探る見解についても、検討することが出来、より生命対生命の比較に寛大なアメリカにおける議論に、過度に対比的になることを避けつつ、繋げることが可能となった。 ゆえに、翌年度以降の研究との関係で、順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は比較法の対象であるアメリカにおける議論を中心に検討する予定である。 2020年度における基礎的調査により主として参照すべき文献の見通しはできているので、その文献を中心に精読・検討することとなる。 計画していた、調査研究のためのアメリカ出張は、コロナウィルス感染拡大の状況に鑑みて慎重に判断せざるを得ない状況が続くが、仮に断念する場合であっても、彼の地の研究者と親交のある国内の研究者などを通じて、一定の意見交換ができるように努めたい。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナウィルス感染拡大により、予定していた国内学会・研究会がすべてオンライン開催となり、国内出張費が不要となった。 また、同様の理由から、予定していたドイツへの出張も断念したため、海外出張費も不要となった。 余剰金は、次年度以降の海外出張費に主として充てるとともに、必要な文献のさらなる入手に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)