2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20K13348
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
冨川 雅満 九州大学, 法学研究院, 准教授 (80781103)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 現代型詐欺 / 実行の着手 / 詐欺罪における錯誤 / 準詐欺 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は、a実行の着手時期に関する研究、b詐欺罪の錯誤要件に関する研究、c準詐欺罪の活用に関する研究を進めた。 aについては、電子計算機使用詐欺罪における着手時期にかかる調査を行なった。近時の判例傾向に従えば、実行の着手判断は各罪の特性が考慮されるべきであるところ、電子計算機使用詐欺罪の罪質理解を行う上で、判例調査及び学説における議論状況を整理した。その結果として、同罪は詐欺罪や窃盗罪の補充規定として創設された経緯があるために、具体的事案においてこれらの罪と同根の発想で処理されている側面がある一方で、他の財産犯とは異なり電子計算機(機械)を媒介とする点に同罪の罪質を決定づけるポイントが見られ、実行の着手判断においても、行為者が電子計算機に対してどのような働きかけをなしたのかという点が重要となりうるとの試論を得た。 bについては、ドイツ語法圏における比較法調査を行なった。対多数詐欺における錯誤立証はドイツ法でも問題視されているところ、このテーマに関する近時の代表的業績であるElisa Frank, Der Irrtumsnachweis beim Massenbetrugを素材として、ドイツ法圏での議論状況の整理を試みた。この調査によれば、この問題を解決するには、錯誤要件の規範を修正する実体法的アプローチと、立証の難易度を下げる訴訟法的アプローチが展開されうるところ、わが国においては、そもそもの錯誤要件に関する議論が未成熟であることを踏まえ、前者のアプローチが望ましいとの試論を得た。 cについては、準詐欺罪に関する判例の蓄積が乏しいことに照らして、立法史及び学説史研究を行なった。とりわけ、わが国の学説史上、準詐欺罪の解釈論における課題がどのように捉えられてきたのかを整理し、それらの課題が実務における準詐欺罪の適用件数の低さとどのように関係しているのかの分析を行なった。
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